1日1時間のゲームを半年、脳はこう変わった
ゲーム未経験の大学生43人に、1日1時間・週5日、半年間ずっとFPSをやらせる。総プレイ時間およそ120時間。その脳波を3回にわたって測り続けた研究が出ました。注意力は速くなり、脳の同期は上がっていた。ただしこの研究には、結論を急がせない大きな穴もあります。
ゲームをやったことがない43人を、半年間ゲーム漬けにした
中国・電子科技大学のジハン・ワンさんらのチームが組んだのは、なかなか根気のいる実験です。ゲーム経験がほとんどない大学生を集め、半年にわたってFPSを続けてもらいました。使ったタイトルは『カウンターストライク:グローバルオフェンシブ』。
ペースは1日1時間、週5日。これを6か月。単純計算でおよそ120時間になります。途中で脱落した人を除き、最後までやり切った43人ぶんのデータが分析されました。
測ったのは2つ。ひとつは注意力のテスト成績、もうひとつは安静時の脳波です。脳波は開始時・3か月後・6か月後の3回、目を閉じて何もしていない状態で記録されました。
「何もしていないとき」の脳を測るのはなぜか
ここが少し意外なところです。ゲーム中の脳ではなく、目を閉じて休んでいるときの脳を測っています。
安静時の脳波には、その人の脳が普段どういう構えでいるかが出ると考えられています。課題中の反応は「いまがんばっているか」に左右されますが、何もしていないときの状態は、より土台に近い。訓練が一時的なコツではなく脳の基本設定を変えたのかを見たいなら、こちらを測るほうが筋が通ります。
注目されたのはアルファ波(8〜13ヘルツ)です。安静時に強く出る波で、大まかには「その領域がいま活発に働いていないほど強い」という関係が知られています。
注意の反応は、着実に速くなった
行動面の結果はきれいでした。狙った対象に絞り込む選択的注意の反応時間は、開始から6か月にかけて着実に短くなっています。
画面全体に気を配る分散的注意のほうは、動き方が違いました。最初の3か月で大きく伸び、その後も改善は続いたものの、伸び幅はゆるやかになっています。広く見る力は先に立ち上がり、狙いを定める力はじっくり伸びる——そう読める形です。
FPSは、画面の隅で動いた1ピクセルに気づき、同時に狙いを定め続けるゲームです。伸びた能力が、やっていたことと素直に対応しています。
FIGURE 01 / 比較
積み上がったプレイ時間と、脳波を測ったタイミング
脳のほうで起きていた2つの変化
脳波側では、方向の違う2つの変化が同時に起きていました。
1つ目は、頭頂葉と後頭葉でアルファ波が弱くなったこと。この2つは、視覚情報の処理と空間的な注意を担う領域です。アルファ波が下がるということは、休んでいる間もこれらの領域が以前より働いている状態に近づいた、と解釈されます。
2つ目は、前頭葉・頭頂葉・後頭葉のあいだの同期が上がったこと。しかも段階的に上がっていました。ネットワークとしての効率やまとまりも、開始時より6か月後のほうが高くなっています。見る(後頭)、位置を把握する(頭頂)、判断する(前頭)が、以前より噛み合って動くようになった、という絵です。
見る・位置を掴む・判断する。この3つの連携が、半年で組み替わっていた。
ここが大事:この研究は「ゲームのおかげ」とは言っていない
面白い結果ですが、書き手として飛ばせない穴があります。この研究には、ゲームをしない対照群がいません。43人全員がゲームをした一群だけの、前後比較です。
対照群がないと、単純に「同じテストを3回受けたから慣れた」という練習効果や、半年ぶんの成長・生活の変化を切り分けられません。研究チーム自身、因果は主張できないと限界に挙げています。
さらに踏み込んで書くと、脳の変化と成績の伸びの関係は、多重比較の補正をかけた後では統計的に有意ではありませんでした。「脳がこう変わったから成績が伸びた」と言い切るには、まだ届いていません。安静時しか測っておらず、課題をやっている最中の脳がどうなっているかも分かっていません。
それでも、この研究が価値を持つところ
限界を並べたうえで、なお面白いのは期間の長さです。ゲームと認知能力の研究は、数時間から数週間の短期訓練が大半でした。6か月・120時間を、同じ人たちで追いかけて脳波まで3回測った例は多くありません。
しかも変化は、途中で頭打ちになっていませんでした。3か月時点と6か月時点で、ネットワークの指標は上がり続けています。もし本当に訓練の効果なら、効き方は数週間で終わらないことになります。
次に必要なのは、ゲームをしない対照群を置いた同じ長さの研究です。それが出てくるまで、この結果は「そういう変化が観察された」という段階に留まります。
まとめ
- ゲーム未経験の43人が、半年で約120時間のFPS訓練を完走した
- 選択的注意の反応時間は着実に短縮、分散的注意は最初の3か月で大きく伸びた
- 安静時の脳波では、頭頂・後頭のアルファ波が低下した
- 前頭・頭頂・後頭のあいだの同期とネットワーク効率が段階的に上がった
- 対照群がなく、脳の変化と成績の関係は補正後には有意でない
▲ ここはまだ分かっていない
対照群がないため、変化がゲームによるものか、テストへの慣れや半年ぶんの成長かを区別できません。脳の変化と成績向上の相関も、多重比較の補正後には統計的に有意ではありませんでした。測ったのは安静時の脳波だけで、課題中の脳活動は調べられていません。
SISTER SITE
タネアカシ
ネットで話題になっていることの「タネ」を明かす姉妹サイトです。 芸能・アニメ・時事から生活のギモンまで、図解つきで解説しています。
タネアカシへ移動する →SOURCES / 出典
- 報道: Six months of action gaming alters brain networks and improves visual attention(PsyPost)
- 原論文: Multi-scale EEG evidence for attention enhancement following long-term action video game training. International Journal of Psychophysiology. doi:10.1016/j.ijpsycho.2026.113384
※ 図解のうち、本研究に由来しない比較値は桁感を示すための概算です。各図のキャプションに区別を明記しています。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。訂正履歴を残して修正します。