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【衝撃】マルハナバチは「玉ころがし」で遊んでいた…エサ抜き45匹が1匹あたり最多117回、木のボールを転がし続けた…

実験室に、直径1.4センチほどの木の玉を置いておく。すると、マルハナバチがそれを何度も何度も転がした——というのが今回の話です。2022年10月、ロンドン大学クイーンメアリー校のサマディ・ガルパヤゲ・ドナ氏らのチームがAnimal Behaviour誌に発表した論文マルハナバチ45匹に、木の玉のある部屋と何もない部屋を選ばせたら、蜂は玉の部屋にわざわざ立ち寄り、1匹あたり少ないもので1回、多い個体では実に117回、玉を転がした食べ物のご褒美は、この実験の間、一度も出ていません若い蜂ほどよく転がし、オスは1回あたりの時間が長かった——この2つの特徴が、犬や猫や人間の子どもの「遊び」と重なる、という格好です。「昆虫の遊び」を確かめた、初めての論文と紹介されました。ただし、「マルハナバチが人間と同じ意味で楽しんでいた」と受け取るのは、この論文が引いた線を越えます

45
実験に参加したマルハナバチの数(玉ころがし実験の第1段)。
117
1匹あたりの最大転がし回数。少ない個体は1回だった。
0報酬
玉を転がしても、砂糖水も花粉も出ない。ただ玉があるだけ。
2026
「昆虫の遊び」を実験で示した、初めての論文の発表年(2022年)。

「昆虫が遊ぶ」はこれまで確かめられていなかった

「遊び」を研究する動物行動学は、これまでずっと犬・猫・イルカ・カラス・そしてヒトのような子どもの動物を追ってきました。「遊び」というのは、大人になってから狩りや逃げに使う動きを、子どものうちに練習する営みだと言われてきたからです。子犬同士のじゃれ合いが典型例です。

ところが、この定義には裏側があります。「遊び」に必要な条件を厳密に決めると、意外に長い。①今すぐの生存にも繁殖にも直接つながらない ②始めるのが自発的で、続けるのも自発的 ③外から見て、他の“まじめな”行動と区別できる形 ④ストレスの少ない状況でだけ起きる ⑤何度も繰り返す——動物行動学ではこの5つを、遊びの目印にします。

この5つを全部満たすと確かめられた動物は、意外に限られていました。とくに、脳の小さな昆虫では、「遊び」が確かめられたことがなかった。マルハナバチは花を訪ね、巣を守り、女王のために働きます。その毎日は、食べ物を集めて生き延びるための「まじめな」行動でぎっしりで、「意味のない」時間の余地はない——と考えられていたわけです。

今回の論文は、その常識を1つひっくり返しました。

今すぐの得にならないことを、45匹の蜂が何度もやった。

実際の映像。蜂が木の玉を意味なく転がし続ける

マルハナバチが木の玉を転がす様子を捉えた実験映像

Bumble bees like to 'play': new video study shows them moving balls for fun/The Telegraph。今回の論文で撮られた実験映像を、英大手新聞のテレグラフが解説した動画です。木の玉を蜂が繰り返し転がす様子が、そのまま映っています1匹の蜂が同じ玉を何回もひっくり返し、次の玉に移り、また戻ってくる——この「戻ってくる」ところが、今回の論文の眼目です(英語)。

45匹に「玉のある部屋」を選ばせた

実験は3つの段に分かれます。いちばん大事なのは「蜂は、玉のある部屋にわざわざ立ち寄るか」を確かめた部分です。

◆ ひとことで言うと

マルハナバチ45匹を、砂糖水がもらえる部屋まで通り抜けるまっすぐの通路に入れた通路の途中には、右か左のどちらかにそれるとたどり着ける「木の玉が置いてある部屋」を用意した。 玉のある部屋に行っても、砂糖水にはたどり着けません。それでも蜂は、まっすぐ通り抜けずに、玉の部屋に何度も寄り道をした——というのが1つめの結果です。

玉の直径は1.4センチほど。蜂の体の1.5倍ほどの、ちょうど蜂が抱きかかえて動かせるサイズです。色はいろいろ用意した(青・黄・オレンジ)。それに、玉のある部屋を通ることで得られる砂糖水は一切なし。それでも蜂は玉の部屋にそれた。

次に、玉のある部屋に入った蜂が、玉に触れて何をするのかを撮り続けた蜂は玉に近づき、脚と体でひっくり返し、抱えて動かし、次の玉に移った。ときどき玉の上に乗って、じっとしていることもあった。

これを、実験に参加した45匹すべてで数えた。すると、次に出てくる数字が並びました。

ここが意外① 1匹あたり最多117回、意味なく転がした

玉を転がした回数は、蜂1匹あたり少ないもので1回、多い個体で117回。ばらつきは大きいものの、「1回か2回さわって終わり」ではなく、何度も繰り返した個体が実験群にいたのが要点です。

ここで、動物行動学の「遊び」5条件を思い出してください。①今すぐの得にならない(玉から砂糖水も花粉も出ない)。②自発的(通路をまっすぐ抜けても不利益はない)。③形が独特(食べ物集めや巣掃除とは違う動き)。④ストレスなし(実験室で常温、ふつうの餌はある)。⑤繰り返す(1匹117回)——5つとも当てはまりました。

それに、玉に触っている蜂は「玉」を運ぼうとしているわけでもなかった巣に運び込むそぶりもなければ、玉の下に隠れるわけでもないただ転がして、抱えて、また放して、次の玉に移る——という、外から見ればまったく無目的な動きでした。

この「無目的さ」が、じつは今回の論文が慎重に守ったところです。玉を巣の材料に使っている可能性、隠れ場所として使っている可能性、餌と勘違いしている可能性——それら全部を、別の実験で消してから、「これは遊びの条件を満たす」と書いたのが、この論文の作法です。

ここが意外② 若いほうがよく、オスが長く転がした

もう一段、面白い数字が乗ります。玉を転がした回数は、蜂の年齢と関係があった羽化してから日が浅い、若い蜂ほどよく転がしていた。年をとった蜂は、玉の部屋にそれる回数も少なく、触ってもすぐ立ち去った。

これは、他の動物の「遊び」でよく知られている性質です。子犬は成犬よりもよくじゃれ、若いイルカは大人のイルカより高くジャンプするマルハナバチも、若い個体のほうがよく玉で遊ぶ——という並びが出ました。

もう1つ。1回あたりに玉と関わっている時間は、オスのほうが長かった。マルハナバチの群れの働き手は、そのほとんどがメスのワーカーで、オスは繁殖の時期だけ飛び立って交尾を狙う存在です。「働かなくてよいオスのほうが、玉に長く関わった」——この結果もまた、他の動物の遊びの性差と重なる方向を向いています。

◆ ひとことで言うと

マルハナバチの玉ころがしは、動物行動学が「遊び」の目印にしてきた5つの条件を全部満たし、しかも年齢と性別のパターンまで、犬や猫や人間の子どもの遊びと同じ方向に出たこれが「昆虫も遊ぶ」と紹介された理由です。ただし、これは「遊びの条件に当てはまる行動が見つかった」ということで、蜂の頭の中で人間と同じ「楽しい」が動いていた証拠ではありません。ここは次のセクションで丁寧に書きます。

この論文がどう受け止められたか。BBCニュースの解説

マルハナバチの遊び研究を報じるBBCニュースの解説映像

Bumblebees enjoy playing with balls, according to study – BBC News/BBC News。論文の共著者・ラルス・チットカ教授(ロンドン大学クイーンメアリー校)本人が出て、実験の映像と考え方を短く解説した回です。「これは、昆虫にも“主観的な体験”があるかもしれないという議論のきっかけになる」——BBCの記者に対する慎重な言い方にも注目しておいてください(英語)。

FIGURE 01 / 45匹の玉ころがし

「1匹あたりの回数」は大きくばらついた

1匹あたりの転がし回数(範囲・模式) 少ない個体 1回でおしまい 平均的な個体 10〜40回ほど繰り返した 最多の個体 117回 年齢による違い(模式) 若い蜂 → 玉の部屋にそれる回数が多い / 1匹あたりの転がしも多い 年をとった蜂 → 反応が薄い 重要: 「45匹の平均は◯回」ではなく、「1回で終わる個体」と「117回続けた個体」が同じ実験群にいた
1匹あたりの転がし回数には大きなばらつきがありました。全員が同じように遊んだのではなく、「よく遊ぶ個体」と「一度触って終わりの個体」がいた——という格好です。※図は当編集部が数字の並びをイメージ化した参考図です。

この数字の正しい読み方

ここが心臓部です。「マルハナバチが楽しんでいた」——この論文からそこまで飛ぶのは、著者たち自身が止めています。4つに分けます。

1つめ。「遊び」の定義を通ったからといって、内側で「楽しい」が動いていた保証はありません。 この論文がやったのは、動物行動学が「遊び」を判定するときに使う5つの目印(得にならない・自発的・独特の形・ストレスなし・繰り返す)を、外から観察できる範囲でチェックしたことです。蜂の頭の中で人間と同じ「楽しい」という感情が動いていたかどうか、そこは今回の方法では測れません。著者たちも論文の中でここに念を押しています。

2つめ。45匹という規模と、実験室のマルハナバチ1種の話です。 今回のマルハナバチは「Bombus terrestris(セイヨウオオマルハナバチ)」1種で、実験室で育てられた個体野外の巣で、忙しく花を訪ねている働きバチが、こういう時間を持っているかどうかは、この論文の外です。ミツバチや他のマルハナバチにそのまま広げるのも、ここではまだできません

3つめ。「玉」の形と大きさで結果が変わる余地があります。 今回使われた玉は直径1.4センチほど。蜂が抱えて動かせる大きさです。これがもっと大きかったら、あるいはもっと小さかったら、蜂の反応はまた違っていたはず「マルハナバチは何でも遊ぶ」ではなく、「今回の玉には反応した」がここでの正確な言い方です。

4つめ。「若い蜂ほどよく遊ぶ」は面白い並びですが、原因の説明ではありません。 若い蜂は、まだ巣の外に飛び立って餌を集める仕事を任されていない期間があります「働かなくていい時間があるから玉に構えた」のか、「若いから“遊び”の意欲が強かった」のか、この論文だけでは分けられません。オスが長く関わったのも同じで、オスは巣の仕事をせず、繁殖の時期以外は暇な存在「暇だからよく触った」も、原因の説明としては十分あり得ます

◆ 誤解されやすい点:「遊びに見える」と「楽しんでいる」は別

この論文が示したのは、「マルハナバチの一部の個体が、意味のない木の玉を何度も転がした。しかも若いほど、オスほど長く関わった」という観察と、「これは動物行動学が“遊び”を判定するときの5条件を、外形上は満たしている」という判定です。 蜂の脳の中で「楽しい」という感情が動いていたかは、この方法では測っていません。「楽しんでいた」というのは、この論文にとっては“分かりやすい呼び方”であって、証明された事実ではありません。

世の中の動き

この論文は、発表から時間がたっても、ときどきSNSで再拡散されます。

2025年、世界ミツバチの日にサイエンス誌が再紹介

米科学誌『Science』の公式アカウントが、世界ミツバチの日(5月20日)に合わせて紹介した投稿です。「実験室で飼われたマルハナバチは、楽しむこと以外に目的のなさそうな理由で、小さな木の玉を転がして遊ぶ」——ここまでは、今回の論文の言い方をほぼそのまま踏襲した書き方になっています。「fun(楽しい)」という英語をどう受け止めるかは読み手に任されている、いい要約です。

その後、同じチームは「蜂は道具的な問題解決もする」ことを Science 誌で示した

2026年、同じ研究グループが今度は「マルハナバチが道具的な問題解決をする」ことを Science 誌に発表しました。偽の花の下に玉を運び込むと餌がもらえる、という装置で、蜂は自発的にそれを解いた「玉ころがし遊び」の研究が、こんどは「道具の使い方」の研究に発展したという流れです。「小さな脳の生き物に、思っていた以上の余白があるかもしれない」——この方向を、同じ研究グループがずっと押し続けているのがよく分かります。

FIGURE 02 / この論文の射程

「言えたこと」と「まだ言えないこと」

この論文が示したこと ・実験室のマルハナバチ45匹に木の玉を提示 ・食べ物なしでも、1匹あたり1〜117回転がした ・玉のある部屋にわざわざ立ち寄った ・若い個体ほどよく転がした ・オスは1回あたりの関わりが長かった ・動物行動学の「遊び」5条件を外形上は満たした = 観察できた行動の性質 この論文からは言えないこと ・「蜂が“楽しんでいた”」という主観 ・野生の巣でも同じことが起きるか ・他の種類の蜂(ミツバチ等)でも同じか ・「若さ」が理由か、「暇さ」が理由か ・遊びに何かの適応的な役割があるのか ・玉以外のものでも同じか = 次の研究が必要なところ
左が今回の到達点、右がまだ確かめられていない領域。「マルハナバチが楽しんでいた」という言い方は、左と右のあいだを跨いでしまっているのが分かります。

まとめ

  • 2022年10月、Animal Behaviour誌にロンドン大学クイーンメアリー校の論文が掲載
  • マルハナバチ45匹に、木の玉のある部屋と何もない部屋を選ばせた
  • 蜂は食べ物なしで玉の部屋にそれ、1匹あたり最大117回、玉を転がした
  • 若い蜂ほど頻繁に、オスは1回あたり長く関わった
  • 動物行動学の「遊び」5条件(得にならない・自発・独特・ストレスなし・繰り返す)を外形上は満たした
  • ただし「蜂が楽しんでいた」という主観までは、この方法では測っていない

▲ ここはまだ分かっていない

この論文はセイヨウオオマルハナバチ1種、実験室のわずかな個体を対象にした観察です。野生の巣で同じことが起きるか、他の昆虫でも同じかはこれから確かめる話です。「若い蜂がよく転がした」ことの理由が、「若いから遊びたい」なのか「若いから巣の中の仕事が少なく、時間があった」なのかは、この論文だけでは分けられません。「遊びに何のためがあるのか(狩りの練習・仲間との関係作り・脳の発達など)」も分かっていません。今回の発見は「昆虫が“遊び”の外形を持つ場合がある」までであって、「昆虫が楽しんでいる」までは言えないことに注意してください。

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SOURCES / 出典

  1. 原論文: Galpayage Dona, H. S., Solvi, C., Kowalewska, A., Mäkelä, K., MaBouDi, H., & Chittka, L. "Do bumble bees play?". Animal Behaviour 194, 239–251(2022年10月27日). doi:10.1016/j.anbehav.2022.08.013
  2. 大学プレスリリース: First-ever study shows bumble bees 'play'(Queen Mary University of London)
  3. 研究室: Chittka Lab — Sensory and Behavioural Ecology(Queen Mary University of London)
  4. 解説: Are these bumble bees playing with toys?(Science)

※ 数値(45匹、1匹あたり1〜117回、年齢差・性差の傾向)は、原論文および掲載誌のプレスリリースの記述に基づきます。 「遊び」の判定は、動物行動学の5条件を外形上どこまで満たすかというもので、蜂の内面での主観的経験を測ったものではありません。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。