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【衝撃】猫は「飼い主の匂い」より知らない人を2倍長く嗅ぐ…30匹の実験で判明した"鼻の使い分け"

家に帰ってきた飼い主の顔の周りをクンクン。あるいは、初めて来た宅配便の靴をずっと嗅いでいる。「猫が長く嗅いでいるのは、それだけ大切な相手だから」——そう解釈したくなります。ところが2025年5月、東京農業大学の内山秀彦准教授らのチームが専門誌『PLOS ONE』に出した論文は、その気持ちを少しくじきます。30匹の飼い猫を集めて、綿棒に染み込ませた3種類の匂い(飼い主・知らない人・何も付けていない綿棒)をかがせたところ、飼い主の匂いは平均2.40秒、知らない人の匂いは平均4.82秒知らない人のほうを、およそ2倍長く嗅いでいたのです。しかも、最初に使う鼻の穴は決まって右、慣れてくると左に切り替わる、という手順まで観察されました。ただし、これで「猫は飼い主に興味がない」と結論するのは、あとで述べるように行きすぎです。

30
実験に参加した飼い猫の数(オス11・メス19)。
4.82
「知らない人」の匂いを嗅いだ平均時間。
2.40
「飼い主」の匂いを嗅いだ平均時間。
右→左
未知の匂いを追うとき、鼻の穴を切り替える順番。

「猫は飼い主のにおいが大好き」は本当か

飼っている猫が、帰ってきた自分の靴下に鼻を突っ込んで長い時間嗅いでいる。あれを見ると、飼い主のほうも「愛されてるな」と思います。猫の嗅覚は人間の約1万倍とも言われ、鼻の奥には人間より多い嗅覚受容体が並んでいます。においから読み取れる情報量が、人間とはケタ違いです。

ところが「その情報量を、飼い主にいちばん多く使っているか」は、実は誰もきちんと測っていませんでした。犬では「飼い主の匂いを嗅ぐと脳の報酬系が光る」という研究があります。馬にも、人と結びついた匂いへの反応があります。猫だけ、なぜか手薄でした。

◆ ひとことで言うと

嗅覚受容体=鼻の奥に並んでいる、匂い分子をキャッチする小さなセンサー。人間は約400種類、猫は約700〜1000種類あるとされる。
鼻孔の左右差(ラテラリティ)=右の鼻と左の鼻で、脳のどちら側で情報を処理するかが違うこと。犬・馬でも観察されている。
ヤコブソン器官=猫の口の中の天井近くにある、匂いを"追加で味わう"ためのもう1つのセンサー。フレーメン反応(口を半開きにするあの顔)のもと。

今回の研究をやったのは、東京農業大学の内山秀彦准教授らのチームです(筆頭は宮入結香さん)。動物と人の関係を長く研究してきたグループで、狙いは「猫は匂いだけで、飼い主と知らない人を区別できるか」を、姿も声もない状態で確かめること。答えは出ました。ただし出方は、飼い主にとって少し意外でした。

綿棒3本を、30匹の鼻先へ

実験のやり方はシンプルです。飼い猫30匹(オス11匹・メス19匹、平均年齢およそ7歳)を家で個別にテスト。参加した17人の飼い主と、その猫が会ったことのない8人の匂い提供者(知らない人)の耳の後ろ・首・脇の下を綿棒でこすり、匂いをつけた綿棒を用意しました。そのうえで、次の3種類の綿棒を1匹ずつ順番に鼻先に差し出します。

  • ①「飼い主」の匂いがついた綿棒
  • ②「知らない人」の匂いがついた綿棒
  • ③何もつけていない綿棒(基準)

猫が綿棒に鼻を近づけ、においを嗅いでいる時間をビデオでミリ秒単位で計り、どちらの鼻の穴を先に使うかも1コマずつ数えました。綿棒の順番はランダムで、実験者の思い込みが結果に入らないようにしてあります。

猫はどうやって世界を「嗅いで」いるのか

猫の嗅覚のしくみを解説するCats Protection公式動画

How cats smell: The world according to cats, episode four/Cats Protection。英国最大の猫保護団体による、猫の嗅覚のしくみの公式解説です。ヤコブソン器官・フレーメン反応まで含めて、なぜ猫にとって「匂い」がそこまで情報になるのかが1本で分かります(英語)。

猫は環境に敏感な動物なので、飼い主が同じ部屋にいる状態で実験しました。行動が緊張で崩れないための配慮ですが、これは後で述べる「読み方」に効いてきます。

ここが意外① 嗅ぐ時間は「知らない人」のほうが2倍長い

結果を見ましょう。綿棒に鼻を近づけていた平均時間は、飼い主が2.40秒、知らない人が4.82秒、何もつけていない綿棒が1.93秒知らない人の匂いは、飼い主の匂いよりおよそ2倍長く嗅がれていました。統計処理でも、この差は偶然では説明しにくい大きさでした。

飼い主の匂いは、猫にとっていちばん興味のあるものではなかった。

ここで「猫は飼い主を好きじゃないんだ」と読みたくなりますが、話は逆です。「もう知っているから、時間をかけて調べる必要がない」という読み方ができます。動物の嗅覚は、危険や新情報を先に処理する仕組みでもあり、知らないもののほうが長く鼻を向くのはむしろ自然。飼い主の匂いを短く済ませたのは、「これは家の匂い」と一瞬でカタが付いた合図と読めます。

何もつけていない綿棒(1.93秒)より、飼い主の綿棒(2.40秒)のほうがわずかに長く嗅がれた、というのも面白い点です。ゼロ反応ではなく、「あ、いつものやつ」の確認ぶんは短く上乗せされていたことになります。

ここが意外② 最初は右の鼻、慣れると左に切り替える

もう1つの発見が、鼻の穴の使い分けです。猫が新しい匂い(知らない人のもの)に鼻を近づけたとき、最初に使うのは右の鼻の穴。同じ匂いに何度か触れるうちに、使う鼻が左に切り替わる——という手順が、コマ送りの動画からはっきり見えました。

これは犬や馬でも報告されている現象です。右の鼻から入った匂いは右の脳に、左は左の脳に、それぞれ届くようになっている。右脳は「未知・警戒・新しいもの」の初回処理を得意とし、左脳は「知っている・落ち着いた反応」を担う——というのが、動物行動学がこれまで積み上げてきた説明です。猫がその「型」に乗っていたということが、今回初めてきちんと数えられました。

猫科の動物が世界を「嗅覚で」どう捉えているか

セントルイス動物園によるネコ科の五感の解説動画

Cat Senses/Saint Louis Zoo。米国セントルイス動物園の公式教材動画。ネコ科動物の視覚・聴覚・嗅覚がどう働くかを、園内のライオンやチーターの例で見せています。家猫のクンクンも、同じ仕組みの延長線上にあることが分かります(英語)。

FIGURE 01 / 結果の骨

綿棒3本の嗅ぎ時間

綿棒の種類 平均の嗅ぎ時間(秒) 知らない人 4.82 未知の匂い 飼い主 2.40 既に知っている匂い 何もつけない 1.93 基準の綿棒 0秒 2秒 4秒
Miyairi et al., PLOS ONE 2025 の Table 1 より。知らない人の匂いは、飼い主の匂いのおよそ2倍嗅がれています。ここで「飼い主に興味がない」ではなく「もう調べる必要がない」と読む理由は、本文で述べたとおりです。

FIGURE 02 / 鼻孔の使い分け

未知の匂いを、右→左で追いかける

初めて嗅いだ瞬間 右の鼻 → 右の脳へ 「未知・警戒」の初回処理 同じ匂いに何度か触れる 慣れてきたとき 左の鼻 → 左の脳へ 「知っている」の落ち着いた処理 結論 犬・馬と同じ 「型」に猫も 乗っていた ※ 犬・馬でこれまで報告されてきた「右鼻ファースト」の型が、家猫でも同じ順序で観察されました。
新しい匂いに出会ったときは右の鼻が先発。同じ匂いに何度か触れて「知っている」に変わると、左の鼻に切り替わっていました。犬や馬で先に見つかっていた"型"に、家猫も同じ順序で乗っていたことになります。

この数字の正しい読み方

ここがこの記事の心臓部です。「猫は飼い主より知らない人が好き」と読むと、ほぼ全部間違えます。この論文が言っていること、言っていないことを分けます。

まず、これは「識別」の証拠ではありません。 論文の著者自身が、はっきり書いています。「今回のデータからは、猫が匂いだけで特定の個人を認識できると結論することはできない」。分かったのは、「飼い主の匂い」と「そうでない人の匂い」を、扱い方(=嗅ぐ時間)で区別しているところまで。飼い主のことを匂いで名指しできる、とまでは言えません。ここを飛ばすと話がまるごとズレます。

次に、「長く嗅ぐ=興味がある」ではありません。 動物行動学の世界では、長く嗅がれるほうがむしろ「初対面・未処理・警戒」の目印です。短く済ませたほうが「もうわかっている」のサイン。ここを反対に読むと、「飼い主に冷たい」というまるで違う話になります。

それから、実験のときに飼い主が同じ部屋にいたことは、著者自身が留保として挙げています。「飼い主の匂いを鼻で確認するより先に、実物の飼い主を目で確認してしまい、その分だけ綿棒への反応が短くなった」可能性は、この実験では消しきれていません。純粋な匂いの比較としては、あと1段の実験が必要です。

最後に、30匹という数です。 猫の年齢や性格、飼い主との過ごし方はさまざま。「全部の猫がこう振る舞う」と言うにはまだ足りないのは、著者が繰り返し書いている通りです。追試(=同じことを別のグループで確かめる作業)が必要な段階の話、と受け取ってください。

それでも、「猫は無関心な生きものだから匂いで人を判別しない」というこれまでの何となくの見立てを、数字ではっきりくつがえした意義は大きい。ここが今回の勘所です。

世の中の動き

この論文は、日本の猫医療の現場でも、海外の神経科学の紹介媒体でも早々に取り上げられました。「猫はよそよそしい」という長年の印象が、少なくとも嗅覚レベルでは通用しない——という点が、猫と暮らす人にも研究者にも刺さったのです。

日本猫医学会の公式アカウントによる紹介

日本猫医学会(JSFM)という、獣医師向けの学会公式アカウントが紹介した投稿です。要旨をそのまま日本語で伝えていて、「識別する能力」ではなく「識別行動を示した」までを慎重に書いているのがポイント。この記事で言いたい線と同じです。

論文公開当日の海外反応

神経科学の海外まとめ媒体「Neuroscience News」が、論文公開当日に流したポスト。corresponding author(責任著者)である内山秀彦准教授の名前で紹介されています。海外の一次媒体でも取り上げられた研究、という位置づけの目印です。

◆ 誤解されやすい点:「飼い主より知らない人が好き」ではない

この論文が示したのは、「飼い主の匂いは短く済ませ、知らない人の匂いは長く調べる」という嗅ぎ方の差です。 長く嗅ぐことは、動物行動学では「まだ処理が済んでいない」のサインです。 短く済ませた=「これは家のいつものやつ」と一瞬でカタが付いた、と読むほうが自然です。 「猫は冷たい」ではなく、「猫は飼い主を、匂いのカテゴリの中でだけは、ちゃんと『既知』に置いている」ということになります。

まとめ

  • 2025年5月、東京農業大学のチームがPLOS ONEに、猫の嗅覚と人の関係を測った論文を発表
  • 30匹の飼い猫が、綿棒3本(飼い主・知らない人・無臭)にどう鼻を向けるかを計測
  • 知らない人の匂いは平均4.82秒、飼い主は平均2.40秒。約2倍の差
  • 未知の匂いは右の鼻から先に嗅ぎ、慣れると左に切り替える手順が観察された
  • ただし論文自身が、「猫が匂いで個人を識別できるとは言えない」「実験時に飼い主が同室だった影響がある」と留保

▲ ここはまだ分かっていない

この研究は30匹の飼い猫で得られた結果です。年齢・品種・生活環境が偏った可能性があります。猫が匂いだけで特定の個人を"名指し"できるかどうかは、この設計では答えが出ません。実験中に飼い主が同室にいたことによる影響も、著者自身が留保として挙げています。この記事は、猫の性格や飼い主との絆の強さを、匂いへの反応の秒数で判定することを勧めるものではありません。

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SOURCES / 出典

  1. 原論文: Yuka Miyairi, Hidehiko Uchiyama et al., "Behavioral responses of domestic cats to human odor". PLOS ONE, 2025年5月28日. doi:10.1371/journal.pone.0324016
  2. 研究機関: 東京農業大学
  3. 紹介: EurekAlert! 「Cats can distinguish the smell of their owner from that of a stranger」
  4. 解説: Neuroscience News の研究サマリー

※ 数値(嗅ぎ時間4.82±0.54秒/2.40±0.28秒/1.93±0.21秒、Friedman検定 p<0.01)は論文中の Table 1 に基づきます。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。