【衝撃】カメレオンが色を変える本当の理由は「隠れるため」ではなかった…21種を比べて分かった…
図鑑で最初に習うカメレオンの話は、たいてい「周りの景色に色を合わせて隠れる」——ですよね。ところが2008年、この教科書的な説明を21種のカメレオンで正面から検証した論文が、これを否定しました。オーストラリア・メルボルン大学のデヴィ・スチュアート=フォックス氏と、南アフリカのアドナン・ムサッリ氏が、南アフリカの小型カメレオン(コビトカメレオン属)21グループの野生個体を集めて、鏡や本物のオスをぶつけて挑発しながら、体の色と周りの景色を分光計で1枚ずつ測ったのです。結果、色の変化幅が大きい種ほど、周りの景色に紛れるどころか、まっすぐ逆に、鳥にも人にも目立つ色を出していた。「隠れるため」に色を変えているように見えるのは副産物で、本当の目的は「相手に見せるため」だった、というのがこの論文の骨格です。ただし「カメレオンは擬態しない」まで読み替えると論文が言っていないことになるので、そこも一緒に書きます。
「隠れるために色を変える」は本当だったのか
カメレオンといえば「色を変える生き物」で、そのとき同時に習うのが「木の枝に紛れるため」「葉っぱと同じ緑になるため」——という説明です。ところが、大人になってから飼育の映像や動物園の解説をよく見ると、カメレオンが出す色は、緑・茶色だけでなく、水色・オレンジ・黄色・黒などかなり派手。枝と同じ色に「合わせる」なら、そんな派手な色は要らないはずです。
この違和感を、真正面から実験で確かめたのが、今回の論文「社会的な信号のための選択が、カメレオンの色変化の進化を決めた」(PLoS Biology, 2008年1月29日)です。研究チームは、南アフリカに住む小さな種(コビトカメレオン属、Bradypodion)の21のグループを取り上げ、野生の生息地に出向いて、1匹ずつ「実際にどこまで色を変えられるか」を測りました。
◆ ひとことで言うと
色を変える仕組みが「隠れるため」に進化したのなら、変化幅が大きい種ほど、その色は周りの景色によく紛れるはずです。 逆に、色を変える仕組みが「相手に見せるため」に進化したのなら、変化幅が大きい種ほど、その色は周りの景色に紛れず、目立つはず。 21種で比べれば、どちらが正しかったかは分かる——というのが、この論文の設計です。
隠れるために変化幅を増やしたのか、見せるために増やしたのか——21種で比べれば分かる。
どう調べたか——鏡と本物のオスで挑発しながら、分光計で測る
研究チームは、南アフリカ各地で、色の変わり方が種ごとに違うことを知っていました。その違いを、行動でも、数値でも記録するために、次の手順を組みました。
- 21種のオスを1匹ずつ捕まえ、生息地の環境に置いてから、「鏡で自分を見せる」「別のオスをぶつける」「メスをぶつける」の3種類の挑発を行う。
- そのとき体の色が最大まで変わったところで、分光計(光の波長ごとの反射率を測る機械)で体の主な部分を1点ずつ計測する。
- 同時に、そのカメレオンが座っていた木の枝、葉、木の幹などの背景も、同じ分光計で測る。
- 体と背景の測定値を、鳥の目の感度モデルにかけて、「捕食者にどれだけ目立つか」を種ごとに数値化する。
◆ ひとことで言うと
ここが工夫のポイントで、「目立つかどうか」を人間の目ではなく、鳥の目のモデルで判定した——というのが、この論文の腕の見せどころです。 人間には地味に見えても鳥にはよく見える色や、その逆もあり、色の話は目の性能と切り離せません。 鳥は紫外線まで見えるので、人間より広い色の世界に生きています。
21種すべてでこれを揃えたところで、「色の変化幅が大きい種は、隠れる方向に変化していたのか、目立つ方向に変化していたのか」を、正面から比較できるようになりました。
ここが意外① 「変化幅が大きい種」ほど、目立つ色を出していた
結果は、教科書的な予想の逆でした。色の変化幅が大きい種ほど、その最大の色は「周りの景色にまったく紛れない」——つまり、目立つ色だったのです。
言い換えると、こういうことです。「派手に色を変えられる能力」を持った種は、その派手さを、隠れるためには使っていなかった。変化幅の狭い種のほうが、緑や茶色の中を静かに漂っていて、変化幅の広い種ほど、鮮やかな青・黄・黒を全身に浮かべて相手を威嚇したり、メスに求愛したりしていた。
ここでは、著者のスチュアート=フォックス氏らは「したがって、カメレオンの色変化を進化させたのは、擬態への選択圧ではなく、社会的な信号への選択圧である」と結論しました。色を変える仕組みは、もともと隠れるためのものではなく、相手に見せるために磨かれてきた——というのが、この論文の主張です。
ここが意外② 「鳥の目」で見直すと、隠れる能力の差は消える
もう1つの発見は、普段の(挑発されていない)色を、鳥の目のモデルで見直すと、種による「隠れる能力」に大きな差はなかったということでした。
これはやや意外な話です。カメレオンは種類ごとに、住んでいる場所の緑の濃さも枝の色も違うので、普段の色は当然、その場所に馴染むように進化しているはず。実際、種ごとに普段の色は違っていました。けれども、その差は「どこかで暮らせば同じくらい隠れられる」範囲内で、種による優劣というほどではなかった——というのがこの論文の解析結果です。
ここから著者たちは、「隠れる」は種を問わない共通装備で、「見せる」の派手さこそが種によって大きく違う、と読みました。言い換えると、カメレオンの見た目の華やかさを作っているのは、隠れるための微調整ではなく、社会的な信号のための「派手さの上乗せ」だった、ということです。
◆ ひとことで言うと
普段のカメレオンは、確かに周りに馴染んでいる。この点は昔ながらの図鑑の説明も嘘ではありません。 ただし、色を「変える」というダイナミックな仕組みは、隠れるためというより、相手に見せるために磨かれてきた。 普段の緑色と、興奮したときの派手な模様は、進化的にはまったく別の仕事を担っている、というのが今回の論文の読みです。
FIGURE 01 / 21種で見えた予想外の関係
色をよく変えられる種ほど「目立つ方向」に変わっていた
この数字の正しい読み方
ここが心臓部です。「カメレオンは隠れるために色を変えている、というのは間違いだった」——ここまでは正しい。ただし、この論文から言えないことも同じくらいあります。4つに分けます。
1つめ。対象は南アフリカのコビトカメレオン属21グループです。 マダガスカルに住むパンサーカメレオンや、大型のフィッシャーカメレオンのような有名種は入っていません。したがって、「世界のすべてのカメレオンで、色変化は擬態ではなく信号のためだ」と一般化するのは早いことになります。ただし、コビトカメレオン属は色変化の派手さのバリエーションが大きく、比較実験には向いた仲間——というのが著者たちの選択理由です。
2つめ。「隠れるために色を変えていない」ではありません。 普段のカメレオンが緑や茶色をしているのは、周りに馴染むためであることは、この論文も認めています。この論文が否定したのは、「色を『変える』能力そのものが、隠れるために進化した」という強い主張だけ。「変化した先の色が地味な種もあり、そのときは静かに背景に紛れる」ことは、日常的にも起きているので混同しないこと。
3つめ。「相関」であって「因果」ではない、という留保があります。 21種の比較で、変化幅と目立ち具合の間に強い関連があった——これは相関です。「派手さがあったから見せるための進化が起きた」のか、「見せるための進化が先で、そこから派手さが生まれた」のかは、進化の話なので、時計を逆回しにはできません。著者たちは「後者の方向のほうがつじつまが合う」と主張しているだけで、証明ではないことも大事なところです。
4つめ。「体温調節のための色変化」は、この論文の対象外です。 カメレオンは寒いと黒っぽくなり、暑いと薄い色になる、という温度による色変化があります。これはまた別の話で、この論文は主に社会的な状況での色変化を扱っています。したがって、「隠れるためか、見せるためか」の二択で全部語れるわけではない——のが実際です。
◆ 誤解されやすい点:「隠れるためではない」と「擬態していない」は別
この論文が示したのは、「南アフリカのコビトカメレオン21種を比べたら、色変化の派手さは擬態ではなく社会的な信号によって説明できる」という比較解析の結果です。 「カメレオンはまったく擬態しない」「普段から目立つ色をしている」といった読み方は、この論文からは出ません。普段のカメレオンは緑や茶に紛れていて、興奮したときに派手な色を出す。その「派手になる仕組み」を作ったのが社会的な信号だった——というのがこの論文の到達点です。
世の中の動き
「カメレオンは擬態のために色を変えるわけではない」という話は、日本のSNSでも定期的に取り上げられます。
Podoroさんがネットで話題になった動物クイズの答え合わせとしてまとめた投稿です。鏡張りの部屋に入れられたカメレオンが、鏡の中の自分をライバルと勘違いして威嚇色に変わり、負けた側は「もう勘弁」と暗い色になる——という一連の反応は、まさに今回の論文で扱われた「社会的信号としての色変化」そのものです。ちなみに、今回の論文の21種のカメレオンの挑発でも、この「鏡」が実際に使われました。鏡は仲間のように見えて反撃してこないので、色の最大値を測るのにちょうど良い相手だからです。ただし、この投稿にある「擬態だけでなく温度や感情でも色が変化する」は正しく、「擬態が主目的ではない」まで言い切るには、この論文のような比較解析が必要——という位置関係になります。
FIGURE 02 / この論文の射程
「言えたこと」と「言ってはいけないこと」
まとめ
- 2008年1月、PLoS Biologyにスチュアート=フォックス氏とムサッリ氏の論文が掲載
- 南アフリカのコビトカメレオン属21グループを、生息地で1匹ずつ比較
- 鏡や本物のオスで挑発し、最大まで変化した色を分光計で測定
- 色の変化幅が大きい種ほど、その色は景色に紛れず「目立つ」方向
- 「色を変える能力」を進化させたのは、擬態ではなく社会的な信号への選択圧
- ただし「カメレオンは擬態しない」まで読み替えると、論文が言っていないことになる
▲ ここはまだ分かっていない
今回の対象は南アフリカのコビトカメレオン属で、マダガスカルの大型種や東アフリカのフィッシャーカメレオンなどは含まれていません。カメレオンは世界に200種以上いるので、この結論を全体に広げる前に、他の地域・他のグループでの追加検証が必要です。また、これは進化の推定を含む解析なので、「派手な色を出せることが、社会的な信号への進化を招いた」という逆向きの因果を完全には否定できません(この点は論文自身も限界として書いています)。体温調節のための色変化(寒いと黒ずみ、暑いと白っぽくなる)は、この論文の対象外で、社会的な信号と重なることもあります。「隠れるためではない」と「まったく擬態しない」はぜんぜん別なので、混ぜないでください。
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- 原論文: Stuart-Fox, D., & Moussalli, A. "Selection for Social Signalling Drives the Evolution of Chameleon Colour Change". PLoS Biology 6(1): e25(2008年1月29日). doi:10.1371/journal.pbio.0060025
- 研究者ページ: Devi Stuart-Fox Lab(メルボルン大学)
- 解説記事: Conspicuous social signaling drives the evolution of chameleon color change(EurekAlert!)
- 関連する後続研究: Teyssier, J. et al. "Photonic crystals cause active colour change in chameleons". Nature Communications 6:6368(2015年)——色変化のナノ結晶メカニズムを明らかにした論文
※ 数値(コビトカメレオン属21系統の比較、色変化幅と目立ち度の正の相関、鳥の目の感度モデルによる評価など)は、原論文PLoS Biology 6巻1号e25および補足情報に基づく丸めの値です。 「カメレオンは擬態しない」といった一般化については、体温調節による色変化や、普段の紛れ色を含めて考える必要があり、この論文だけで結論することはできません。誤りを見つけられた場合はご連絡ください。