【衝撃】ゴキブリは「相手の羽」を食べ尽くすと、浮気しなくなっていた…440回攻撃して、パートナーを間違えたのは0.5%未満…
「ゴキブリ」と聞いて頭に浮かぶのは、たぶん「気持ち悪い」「すばしっこい」「見つけたら殺虫剤」——そのあたりだと思います。ところが沖縄の朽ちた木の中では、そのゴキブリが、人間顔負けの一途さを見せていました。2026年3月、兵庫県立人と自然の博物館の大崎遥花研究員、沖縄科学技術大学院大学の菊池顕生氏、シドニー大学のNathan Lo教授らがRoyal Society Open Science誌に発表した論文によると、リュウキュウクチキゴキブリのオスとメスは出会うと、まず互いの「羽」をかじり取って食べてしまい、そのまま一生飛べなくなります。この「羽の食い合い」を終えたペアの巣に見知らぬ個体を送り込んだところ、オスもメスも侵入者だけを息を合わせて追い払い、自分のパートナーにはほとんど手を出しませんでした。440回記録した攻撃のうち、パートナーを誤って狙ったのは0.5%未満。侵入者と交尾したり、パートナーを乗り換えたりしたことも一度もありませんでした。これは昆虫で、配偶相手だけを特別扱いする「ペアの絆」が実験で確かめられた、世界で初めての例です。ただし、この行動を人間の「愛」と同じ意味で呼んでいいかどうかは、また別の話なので、そこも含めて書きます。
ゴキブリの「羽の食い合い」、知っていますか
沖縄の森には、朽ちた倒木の中だけで一生を終えるリュウキュウクチキゴキブリという虫がいます。木くずを食べ、朽木の中にトンネルを掘って暮らす、家族思いのゴキブリです。ふつうのゴキブリと大きく違うのは、恋の始め方です。
繁殖の季節(4〜7月)になると、翅の生えた新成虫が朽木の外に飛び出し、相手を探します。オスとメスが出会うと、2匹はその場でお互いの翅を、根元からかじり取って食べてしまいます。翅は二度と生えてこないので、この瞬間から2匹とも一生飛べなくなります。この行動自体は、九州大学の大崎遥花氏(当時大学院生)と粕谷英一准教授が2021年に学術誌「Ethology」で報告していて、雌雄の両方が相手の翅を食べ合う例は、生き物の世界でもここでしか確認されていません。
◆ ひとことで言うと
「翅を捨てる」というのは、このゴキブリにとって後戻りできない選択です。人間で言えば、結婚指輪をはめて、もう外せないように指ごと接着してしまうようなもの——飛んで逃げる自由を、2匹そろって手放すわけです。今回の新しい論文は、この「後戻りできない儀式」の先に、本当に特別な関係が生まれているのかを、初めて実験で確かめました。
羽をなくした2匹は、もう飛べない。そのかわり、互いだけを選ぶようになっていた。
どう調べたか——巣に見知らぬ相手を送り込んだ
「翅を食べ合うと、パートナーだけを特別扱いするようになる」——これは今まで、観察に基づく想像であって、実験で確かめられたことはありませんでした。そこで研究チームは、次のような実験を組みました。
- 人工の巣箱を用意し、そこにオスとメスのペアを入れる。グループは2つ。まだ翅を食べ合っていない「新婚前」のペア8組と、翅を食べ合いを終えた「新婚後」のペア10組。
- ペアが巣箱に落ち着いたあと、見知らぬ1匹(オスまたはメス)を、こっそり巣箱に侵入させる。侵入者への反応が、翅を食べ合う前と後でどう変わるかを比べるためです。
- その一部始終をビデオカメラで撮影し、専用のソフトで「誰が」「誰に」「何回」攻撃したかを、1つずつ数え上げる。触角で相手を確かめる、体で押し合う(ラミング)、といった行動を細かく分類しました。
まだ翅を食べ合っていない8組では、侵入者に対する攻撃はほとんど起きませんでした。ところが翅を食べ合いを終えた10組では、侵入者がオスであってもメスであっても、一貫して強い攻撃が向けられました。しかも攻撃したのは片方だけでなく、オスとメスの両方——2匹そろって、侵入者を追い返しにかかったのです。
ここが意外① 攻撃するのは侵入者だけ、パートナーは無傷のまま
ここがいちばんの見どころです。翅を食べ合った後のペアは、侵入者には容赦なく攻撃するのに、同じ巣にいる自分のパートナーには、ほとんど攻撃を向けませんでした。つまりこのゴキブリは、「動くものは全部攻撃する」のではなく、「相手が誰かを見分けたうえで」攻撃するかどうかを決めていることになります。
研究チームは、この結果を単純な説明では片づけられないとも書いています。もし「気の強さ(序列)」だけで攻撃方向が決まっているなら、同性の侵入者と長く争ったあとは、疲れて弱った側に矛先が向いてもおかしくありません。ところが実際には、どれだけ同性の侵入者と長く争ったあとでも、パートナーは一貫して侵入者だけを狙い続けました。これは、パートナー同士が「侵入者を追い出す」という一つの目的のために、協力して動いていることを示しています。
◆ ひとことで言うと
これまで「ペア(つがい)で仲良く暮らす」生き物は、エビや一部の甲虫でも知られていました。ただしエビは侵入者を追い払っても、その侵入者と後で交配してしまうことがあり、子育て中の甲虫の攻撃は「わが子を守る」ための防衛にすぎませんでした。今回のゴキブリのように、パートナーへの寛容さと、侵入者への排除が同時にはっきり出た例は、背骨のない生き物(無脊椎動物)では初めてだと、論文は位置づけています。
ここが意外② 440回殴り合って、仲間を間違えたのはほぼゼロ
数字で見ると、この「見分ける力」の正確さがよく分かります。実験全体で記録された侵入者への攻撃は、合計440回。そのうち、パートナーを誤って攻撃してしまった回数は、全体の0.5%に届きませんでした。しかも、まれに誤爆が起きても、攻撃した側はほぼ即座に動きを止めたと報告されています。
薄暗い巣箱の中で、動き回る2匹の虫が、真っ暗に近い環境で440回殴り合って、ほとんど相手を間違えない——これは私たち人間で言えば、停電した自宅の中で家族と来客が入り乱れても、手探りだけで99.5%以上の精度でよそ者だけを掴み分けているようなものです。触角による匂いや手触りの違いを、瞬時に見分けている可能性が高いと考えられています。
FIGURE 01 / 攻撃の相手を選び分ける
「翅を食べる前」と「食べた後」で、攻撃の的が変わる
この数字の正しい読み方
ここが心臓部です。「ゴキブリがパートナーだけを大事にする」——ここまでは、実験で確かめられた事実です。ただし、そこから先にどこまで踏み込んでいいかは、慎重に線を引く必要があります。
1つめ。これは人工の巣箱の中の話です。 実験は、研究室で用意した人工の巣箱に、限られた時間だけペアと侵入者を同居させたものです。本物の朽木の中は、もっと暗く、通路も複雑で、天敵もいます。野生の巣で同じことが起きているかは、今後、野外での追加観察が必要だと研究チーム自身も述べています。
2つめ。サンプル数はまだ大きくありません。 比べたのは「翅を食べる前」8組と「食べた後」10組、合わせて18組です。440回という攻撃の総回数は積み重なった数字ですが、ペアの数そのものはそう多くないため、個体差の影響が完全には排除できません。
3つめ。「なぜ翅を食べると変わるのか」は、まだ分かっていません。 論文は、翅が傷つくときに出る化学物質、触角への刺激、体の中のホルモンの変化などを候補として挙げていますが、どれが本当の引き金なのかは、この研究だけでは決められません。交尾自体は翅を食べる前後どちらでも見られたので、「交尾さえすればよい」わけではなく、翅の食い合いに何か追加の役割があるらしい、というところまでが今回の到達点です。
4つめ。これは「感情としての愛」を証明したものではありません。 実験で示されたのは、あくまで「行動として、相手を選んで攻撃するか・しないか」という外から見える違いです。ゴキブリが人間のように相手を恋しく思っているかどうかは、今の技術では確かめようがありません。研究チームが言っているのは「行動のうえでの排他的な関係(ペアボンド)がある」というところまでで、そこから先の「愛」という言葉は、報道やこの記事も含めた分かりやすい比喩だと考えてください。
◆ 誤解されやすい点:「行動の証拠」と「気持ちの証明」は別
この論文が示したのは、「翅を食べ合ったペアは、侵入者と自分のパートナーとを、行動のうえで明確に区別していた」という観察事実です。 これは「昆虫にも、脊椎動物に似た選択的な社会関係がありうる」ことを示す強い証拠ですが、「ゴキブリが人間と同じ意味で愛情を感じている」という意味ではありません。研究チーム自身も、翅を食べ合う前の24時間がどれだけペアの絆づくりに重要かは、まだ確実ではないとして、追加の実験を計画しています。この論文の価値は「排他的な関係の行動的な証拠」を無脊椎動物で初めて示したところにあり、生き物の「気持ち」を証明したものではありません。
世の中の動き
この研究は2026年3月4日の発表直後から、NPRやScience News、Phys.orgなど欧米の主要な科学メディアが相次いで取り上げ、「ゴキブリなのに一途」「気持ち悪いのに、なぜか尊い」という反応が広がりました。論文の著者の一人であるNathan Lo氏は、この行動について報道の中でこう説明しています。
◆ 著者本人のコメント(NPR取材より)
「これは、両者にとっての“この関係に賭ける”という、後戻りできない合図のようなものだ」。Lo氏はまた、今回の結果を「無脊椎動物における“絆のような関係”を示す、これまでで最もくっきりした証拠だ」とも述べています。
日本国内では、研究の中心となった兵庫県立人と自然の博物館が3月4日にプレスリリースを公開し、地元紙(神戸新聞など)でも紹介されました。「昆虫は原始的だから複雑な社会関係は持たない」という、これまで漠然とあった思い込みに対して、朽木の中の小さなゴキブリが一石を投じた形です。
FIGURE 02 / この研究の射程
「言えたこと」と「言ってはいけないこと」
まとめ
- 沖縄のリュウキュウクチキゴキブリは、配偶時に雌雄が互いの翅を食べ合い、以後一生飛べなくなる
- 2026年3月、大崎遥花研究員らがRoyal Society Open Science誌に発表
- 翅を食べ合った後のペア(10組)は、侵入者をオスもメスも一貫して攻撃した
- 440回の攻撃のうち、パートナーへの誤爆は0.5%未満。誤爆してもすぐ止めた
- 侵入者と交尾したり、パートナーを乗り換えたりしたことは一度もなかった
- 無脊椎動物で、配偶相手だけを選ぶ排他的な関係が実験で示された初めての例
▲ ここはまだ分かっていない
この実験は人工の巣箱で、限られた時間だけ行われたもので、朽木の中の野生の巣で同じことが起きるかは、まだ確かめられていません。また、翅を食べ合うことが具体的にどんな仕組み(化学物質・触角刺激・ホルモン変化のどれか)でパートナー認識につながるのかも未解明です。研究チーム自身、翅を食べ合う前の24時間という時間がどれだけ絆づくりに重要かは確実ではないとしており、追加の実験を予定しています。今回調べたのはこの1種のゴキブリだけで、他のゴキブリや昆虫全般に同じ行動があるとは限りません。そして繰り返しになりますが、これは行動の証拠であって、ゴキブリの「気持ち」を証明したものではありません。
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- 原論文: Osaki, H., Kikuchi, K., & Lo, N. "Exclusive aggression against intruders in cockroach mating pairs following mutual wing-eating". Royal Society Open Science 13(3): 251992(2026年3月4日). doi:10.1098/rsos.251992
- 背景研究(翅の食い合いの発見): Osaki, H. & Kasuya, E. "Mutual wing-eating between female and male within mating pairs in wood-feeding cockroach". Ethology 127(5): 397–402(2021年). doi:10.1111/eth.13133
- 研究機関プレスリリース: 兵庫県立人と自然の博物館「翅を食べ合うことで『唯一のパートナー』を形成」(2026年3月4日)
- 解説報道: These roaches form exclusive long-term relationships after eating each other's wings(NPR)
※ 数値(ペア数8組・10組、攻撃440回、誤爆0.5%未満など)は、兵庫県立人と自然の博物館の公式プレスリリースおよび、Science News・Phys.org・NPRなど複数の科学報道が伝えた同一データに基づく丸めの値です。原論文はアクセス制限のためオンライン全文の直接確認はできておらず、一次資料に最も近い研究機関のプレスリリースと複数の独立した科学報道の一致を根拠としています。誤りを見つけられた場合はご連絡ください。