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【衝撃】1億年前の海に体長20mのタコ…見つかったのは「顎だけ」だった

白亜紀の海を支配していたのは、モササウルスやサメだと言われてきました。ところが北海道大学のチームが北海道とカナダの地層から掘り出した化石は、その常識をぐらつかせます。復元される最大体長は約20メートル。当時の海生爬虫類よりも大きい、頂点捕食者としてのタコ——。ただし、この20メートルという数字を「タコ丸ごとが見つかった」と受け取ってはいけません。残っていたのは、顎の化石だけです。

20m
顎の大きさから復元された最大体長(推定)。
10%
よく育った個体の顎の先が、生前に削れていた割合。
100〜72Ma
化石が見つかった時代(Ma=100万年前)。
5Ma
タコ類の化石記録が、今回さかのぼった年数。

白亜紀の海、頂点にいたのはタコだった?

恐竜が地上を歩いていたころ、海には別の巨大生物がいました。学校で習うのは、たいていモササウルス(首の短い巨大な水生爬虫類)プレシオサウルス(首の長いほう)、それに白亜紀のサメあたりです。長らく「海の頂点」はこの顔ぶれのものだと考えられてきました。

北海道大学の伊庭靖弘教授らのチームが2026年4月にScience誌で報告したのは、この顔ぶれにタコが並ぶかもしれない、というものです。しかも小さなタコではありません。顎の大きさから復元される最大の全長は、およそ20メートル。当時の海生爬虫類より大きい可能性があります。

◆ ひとことで言うと

頭足類=タコ・イカ・オウムガイの仲間。頭に足がついているように見えるので、この名前。
有触毛類(ゆうしょくもうるい/Cirrata)=タコの中でも、腕にヒレがあってヒラヒラした「団扇(うちわ)」を持つ深海性グループ。今回の主役は、この仲間の絶滅した親戚です。
ナナイモテウティス=2種の巨大タコにつけられた属名。カナダのバンクーバー島のナナイモ地層から名前が来ています。

「タコ」と言ってすぐ思い浮かぶのは、スーパーの鮮魚コーナーにいる、体長40センチくらいのマダコだと思います。あれと同じ仲間で20メートル、というのが直感的にどれくらいかを、頭に置いてから先を読んでください。

現代の「ヒレのあるタコ」(有触毛類の代表格)

有触毛類の深海タコを撮影したMBARIの映像

Ghostly critters from the deep sea: CIRRATE OCTOPUS/MBARI(モントレー湾水族館研究所)。今回の絶滅グループにいちばん近い、現代の「ヒレのあるタコ」の実物映像です。今回の化石は、この仲間の祖先の話(英語)。

石を1ミクロンずつ削って、AIに見せた

問題は、タコの体はふつう化石に残らないということでした。骨がなく、体のほとんどが柔らかい肉なので、死んだあと数日で溶けて消えてしまう。そのため、恐竜時代のタコの姿はほとんど分かっていませんでした

ところがタコにも、1か所だけ硬いところがあります。です。オウムのくちばしのような形をしていて、獲物の殻をくだくのに使います。ここは石になって残る。今回のチームは、この顎の化石を狙いました。

使ったのは「高分解能研磨断層撮影(けんまだんそうさつえい)」という、聞き慣れない技術です。やっていることは名前のまんまで、石を1ミクロンずつ研いで削っては写真を撮る——これを何万回もくりかえして、石の中に埋まっている化石を立体的に組み立てるのです。

撮った断面写真の山から化石だけを抜き出すのに、AIを使いました。人間の目では追いきれない、石とわずかに色の違う顎のかけらを、機械にパターンとして拾わせたわけです。

石の中に埋もれていた顎を、1ミクロンずつ削り、写真を撮り、AIに組み立てさせた。

この方法で、北海道とバンクーバー島の白亜紀後期(1億〜7200万年前)の地層から、2種類のタコの顎が浮かび上がりました。ナナイモテウティス属という、今回の論文で正式に整理された仲間です。

ここが意外① 顎の10%が削れるほど、噛みまくっていた

FIGURE 02 / 比較

白亜紀の海の「大きさランキング」に、タコが割り込む

今回の巨大タコ ≈ 20 m 大型のモササウルス 〜 17 m ホホジロザメ(現代) 〜 6 m マダコ(現代) 〜 0.6 m 全長・メートル
今回のタコは、当時の海生爬虫類より大きい可能性がある——というのが論文の主張です。ホホジロザメやマダコを並べたのは、直感でスケールをつかむため。ただし20mは復元値であり、実物のタコ丸ごとが化石で残っていたわけではないことを、この段階で押さえておいてください(詳しくは第5節)。

顎そのものの大きさから、体全体の大きさが復元できます。ここから出た数字が、冒頭の「最大約20メートル」です。当時の大きなモササウルスに匹敵するか、上回るサイズ。タコとしては、まったく別の生き物と言っていいスケール感です。

もう1つ、面白いのがこちら。よく成長した個体の顎には、先端が最大10%ほど、生前に削れて丸くなっているものがあった。これは現代の頭足類、たとえば貝の殻をかじって食べるコウイカなどと比べても、ずっと多い摩耗量です。

削れているのは、硬いものを、日常的に、しかも強い力で噛みくだいていたということを示します。今回のチームが結論としたのは、「これは食物網の下のほうで暮らしていた生き物ではない。海の頂点にいた捕食者だ」ということでした。

Science誌本人による発表ツイート

ここが意外② 左右の摩耗がずれている=「利き腕」があった?

もう1つ、この論文にはさらに踏み込んだ観察が入っています。顎の摩耗が、左右で非対称だった、というものです。

人間で言うと、右利きの人はハサミの右刃だけがすり減る、というのに近いイメージです。頭足類の顎で左右差が出るということは、いつも同じ側から獲物を噛んでいた可能性があるということ。研究チームは、これを「行動の偏り=利き腕のようなもの」、そしてその奥にあるかもしれない高い認知能力の証拠、と読んでいます。

ただし、この読み方はかなり大きな仮説です。同じ論文の中でも、証拠として顎の摩耗だけで足りるかは、慎重に扱ったほうがいい話です。あとの節でもう一度触れます。

日本の研究者による日本語まとめ

北海道大学の別分野の研究室による日本語のまとめです。今回の論文の要点が、この2文にぎゅっと収まっています。大きさ・食性・利き腕・知能の4つが、この研究のうちどれもが「新しい主張」の側だ、という点を押さえておいてください。

FIGURE 03 / 復元

残っていたのは、顎だけ

実際に化石として残っていた部分 顎(数センチ) 顎から復元された全長 ← 約20mまで(推定) 実測20mの化石が出たわけではない。顎の比率と現代のタコの体型から換算した復元値
実物として石から出てきたのは、点線より上の「数センチの顎」だけです。20メートルという数字は、この顎の大きさと、現代のタコの「顎と体の比率」を組み合わせて計算した復元値です。「タコまるごとが見つかった」わけではありません。

この数字の正しい読み方

ここがこの記事の心臓部です。「白亜紀に体長20mのタコがいた」を、そのまま「体長20mのタコの化石が見つかった」と読んではいけません

まず、20mは復元値です。 実際に見つかっているのは、数センチの顎の化石だけ。そこから「現代のタコならこの顎はどれくらいの体を持つか」を計算して、20mという数字を出しています。復元の途中には「絶滅した仲間も、現代のタコとだいたい同じプロポーションだった」という前提がはさまっています。

次に、この復元は「体長」=全長の話です。 タコの「全長」は、頭のてっぺんから、いちばん長い腕の先までの長さ。伸ばした腕の長さがそのうちの大半を占めるので、「体そのもの」が20mあったわけではありません。もっと言うと、頭と体の中心(マントル部)は、その1割にも満たない大きさだったはずです。「20メートルのタコ」というより「20メートルまで腕を広げられる可能性のあるタコ」と読むほうが、実像に近い。

そして、この巨大タコが本当に頂点捕食者だったかは、状況証拠にとどまります。 論文は「顎が10%も削れていた」ことを根拠に「硬いものを噛みくだく強い捕食者だった」と結論しました。ただし、「何を食べていたか」を直接示す化石(獲物の一部が胃から出るなど)は見つかっていません。「海生爬虫類を捕食していた可能性」というのは、あくまで大きさから逆算した推測です。

最後に、「利き腕」と「知能」の話は、もう一段推測が乗ります。 顎の摩耗の左右差は、たしかに事実として観察されたものです。ですがそこから「行動が偏っていた」→「高度な認知能力」までは、間にいくつか仮定が入っています。この点はサイエンス誌の掲載であっても「示唆」の域を出ないもので、追加の証拠が待たれる段階です。

それでもこの論文の価値は、動きます。 白亜紀のタコ類の化石記録を約500万年さかのぼらせ、しかも「小さい弱者ではなく、頂点捕食者としてのタコ」という新しい絵を提示したこと自体は、たしかな貢献です。「20mが証明された」ではなく「20mまで復元できる化石が出た」と読むのが、この論文の正確な位置です。

世の中の動き

この論文は、報道で「クラーケン(伝説の海の怪物)が実在した」という切り口でよく取り上げられました。ScienceやCNN、National Geographicなどが「20メートル」「60フィート」といった数字を見出しに使い、日本語圏でも大きく紹介されました。

ただし、専門家の中には慎重な受け止めもあります。以下は、今回の論文をとりあげた海外の頭足類ファン/研究者の投稿の1つです。

「歴史的にはあまり知られていない属だった」との指摘

ここに「主に顎の化石だけから知られる、あまり研究されてこなかった属」と書かれている点が大事です。ナナイモテウティスという属は前から名前だけは知られていたけれども、これまで手がかりが少なく、大きさや生態はよく分かっていなかった。今回の論文は、そこに新しい標本と新しい復元を持ち込んだ研究、というのが正しい位置です。

タコの体のつくり——顎(くちばし)はどこにあるのか

タコの体の仕組みを解説するReal Scienceの動画

The Insane Biology of: The Octopus/Real Science。タコの体のつくりが図解で分かります。今回の話で化石として残っていた「顎(くちばし)」がどこにあるのか、この動画を見ておくと、なぜ「顎だけから体長を推定する」のが可能かが直感的に分かります(英語)。

◆ 誤解されやすい点:「20メートルのタコ丸ごとが見つかった」ではない

報道の見出しは短くするために「20メートルのタコ」と言い切ることが多いですが、見つかったのは顎の化石だけです。 20メートルは、その顎から現代のタコの体型を使って復元した推定値。 胴体そのものの化石は残っていません。「体が20メートル」ではなく「腕を広げれば20メートルになりうる」と読むと、実像に近くなります。

まとめ

  • 北海道大学のチームが、白亜紀後期のタコ類の顎の化石を報告した
  • 顎の大きさから復元される最大全長は約20m。当時の海生爬虫類に匹敵するか、上回る
  • 顎の摩耗が最大10%あり、硬い獲物を強く噛みくだく頂点捕食者だった可能性
  • 左右で摩耗が非対称。「利き腕」のような行動の偏りが示唆される(要追加検証)
  • タコ類の化石記録が約500万年さかのぼった

▲ ここはまだ分かっていない

20mという体長は、数センチの顎の化石から復元した推定値であり、体そのものの化石は残っていません。海生爬虫類を捕食していたという主張は、直接の証拠(胃の内容物や噛み跡など)ではなく、大きさや顎の摩耗からの推測です。左右非対称の摩耗から「高度な認知能力」までを結ぶ話は、この論文の中でも慎重に扱うべき仮説で、追加の証拠が必要です。この記事は、この生き物の生態について特定の結論を断定するものではありません。

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SOURCES / 出典

  1. 原論文: Yasuhiro Iba et al., "Earliest octopuses were giant top predators in Cretaceous oceans". Science, 2026年4月23日. doi:10.1126/science.aea6285
  2. 大学リリース: Giant octopuses may have ruled the oceans 100 million years ago(北海道大学)
  3. 報道: Giant octopuses may have ruled the oceans 100 million years ago(phys.org)
  4. 報道: Giant octopuses may have ruled the oceans 100 million years ago(EurekAlert!)
  5. 報道: In Cretaceous Oceans, Giant 'Kraken-Like' Octopuses May Have Been Top Predators(Sci.News)

※ 復元全長20mは論文の推定に基づく参考値であり、報道によっては19mや60フィートといった表記もあります。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。訂正履歴を残して修正します。