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【衝撃】タコは眠りながら「昼の色」に戻っていた…OISTと沖縄の海が撮ったREM睡眠のような1分間

水槽の底で、じっと真っ白になって眠っていたタコ。そのタコの体表が、1時間に一度、突然にきらめき出す茶色い斑点、白い縞、体の色が「起きているときとそっくりの柄」に切り替わり、そのまま1分ほど続いてまた白く戻る——というのが今回の話です。2023年6月、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のサム・ライター氏(神経科学)らがNature誌に発表した論文研究チームは体表の柄をカメラで撮ると同時に、脳の中の電気活動も測っていました「昼の柄」に戻っているそのとき、脳の電気の動き方も「起きているとき」と同じパターンになっていた人間の夢がREM睡眠と結びついているのと同じ形が、8本足の生き物にも見つかった——という格好です。ただし、「タコが夢を見ている」と言い切るのは早いのがこの論文の慎重なところです。

2種類
タコの眠りには、静かな眠りと「起きたような眠り」の2種類があった。
約60
静かな眠りから、次の「起きたような眠り」までの間隔。
約60
「起きたような眠り」が続く時間。1分ほどで終わり、また静かに戻る。
2か所
昼の柄と、脳の電気が「起きているとき」と一致した測定場所。

「静かな眠り」と「起きているような眠り」

タコが眠る。これ自体は、少し前まで「本当に眠っているのか、ただじっとしているだけなのか」区別がつきませんでした。魚と違って、タコにはまぶたがありません。だいたい体は真っ白になり、水槽の底で腕を折りたたんで動かなくなります。

ところが2021年ごろから、動物行動学のあいだで面白い観察が積み上がってきました。眠っているタコの体表に、突然“昼の柄”が戻る瞬間がある——という報告です。それを、脳の電気の動きまで同時に測って、Nature誌に載る形の証拠にしたのが今回のライター氏らの論文です。

タコの眠りには、はっきり性質の違う2つの状態がありました。

  • ①静かな眠り——体が白っぽく、腕はたたまれ、脳の電気の動きもゆっくり。ほとんどの時間はこちら。
  • ②起きているような眠り——皮膚の色や柄が「昼」に戻り、目が動くように見え、脳の電気も「起きているとき」と同じ動きをする。1時間に1分ほど。

人間の睡眠が「静かな眠り(ノンレム)」と「体の中身は動いている眠り(レム/REM)」の2段構えでできているのとよく似た形です。

1時間に1分だけ、眠ったまま「昼」に戻る。

実際の映像。眠っているタコの体表がぱっと昼の柄に切り替わる

眠っているタコが色を変える様子を捉えたNature on PBSの映像

Octopus Dreaming/Nature on PBS。アラスカ太平洋大学のデビッド・シェール氏が水族館で撮った、眠っているタコが色を変える様子です。白く沈んでいる体表に、突然に茶色い斑点が広がる。次の瞬間、また真っ白に戻る——この映像は今回の論文の下地になっている観察で、本文の「起きているような眠り」がどう見えるかが、そのまま撮れています(英語)。

体表の柄と、脳の電気を同時に撮る

この論文の勘所は、「見えているもの(皮膚の柄)」と「見えないもの(脳の電気)」を、同じ時計で並べたことにあります。

◆ ひとことで言うと

タコの体表を高解像度カメラで撮り続けながら、同時に脳の中に細い電極を入れて電気の動きを記録した体表の「柄」を機械学習で分類し、脳の電気の動きと1秒単位でつき合わせた——というのが今回の手順です。 対象は沖縄の海に住む「オキナワサザナミダコ(Octopus laqueus)」の若い個体を室内飼育したものです。

体表の変化を、人間の目で「これは昼の柄、これは白」と分類するのはあまりに大変です。この論文では、深層学習で1コマずつ柄を数値に落とし、時間軸に並べた。すると、「静かな眠り」の白いままの時間と、「起きているような眠り」の柄がぐるぐる変わる時間が、機械の目で見てもきれいに分かれた——というのが結果の下敷きになっています。

それに、脳の中の電気の動き(局所電位)を重ねる。ここに、いちばんの発見が乗ってきます

ここが意外① 60分に1分だけ、昼の色に戻る

結果です。タコは、まる1日のかなりの時間を眠って過ごします。ただしその眠りのほとんどは「静かな眠り」で、体表は真っ白のまま。

そこに、およそ60分に1回、1分ほどの「起きているような眠り」が挟まりましたこの短い1分のあいだに、体表の柄はぐるぐると入れ替わる茶色い斑点、白い縞、細かい水玉——起きているときに周囲に合わせて出しているのと同じ種類の柄です。

ただし、この“1分の柄”は、起きているときの柄そのままではありませんでしたより短く、より簡略化した“ダイジェスト版”のような形起きているときの柄の一部を、順番に見せるような並びだったのです。

ここで、この論文が「タコの夢」と呼ばれることの理由が出てきます。人間のREM睡眠でも、脳のなかで“昼間の一場面”が短く再生されることが知られているタコの体表で起きていたのは、その“再生”が皮膚の柄になって外から見えているようなもの——というのが今回の見立てです。

ここが意外② 脳の電気も「起きているとき」と一致した

もう一段、証拠が乗ります。「起きているような眠り」の1分間、タコの脳の中の電気の動きは、起きているときとほぼ同じパターンに切り替わっていました

脳の中には、「速く小さな波」(起きているとき)と「遅く大きな波」(眠っているとき)という区別があります。人間でも他の脊椎動物でも、この区別は睡眠の目印になります。タコの「静かな眠り」のあいだは、遅く大きな波。ところが「起きているような眠り」に入る瞬間、波は速く小さいものに切り替わり、また1分ほどで元に戻った

皮膚の柄が「昼」に戻る時間と、脳の電気が「昼」に戻る時間が、ぴったり一致していた——ここが今回の発見のいちばん強い部分です。

◆ ひとことで言うと

私たち哺乳類のREM睡眠と、鳥のREM睡眠と、そしてタコの「起きているような眠り」は、それぞれ別の系統で独立に生まれてきた可能性が高い。 にもかかわらず、「静かな眠り」と「起きているような眠り」の2段構えに落ち着いている脳が根本的に違う生き物でも、眠りは同じ形になる——これが、この論文が神経科学の側に投げかけた問いです。

研究がどう受け止められたか。海外メディアによる短い解説

眠るタコの色変化研究を紹介するNowThis Impactの解説映像

Why This Octopus Changes Colors in Her Sleep | NowThis/NowThis Impact。タコの睡眠色変化について、映像と解説を短くまとめたメディア記事です。体表の変化と、それをREM睡眠と重ねる見方を、専門用語を使わずに紹介しています。上のPBSの生の映像と、この解説を並べて見ると、今回の論文が「何を映像で示して、そこにどんな解釈を乗せているのか」が分けて理解できます(英語)。

FIGURE 01 / タコの1晩

静かな眠りに、1分の「昼」が挟まる

1時間の記録(模式) 皮膚の柄 白いまま(静かな眠り) 昼の柄が出る 脳の電気 遅く大きな波(静かな眠り) 速く小さな波(起きているときに一致) 約60秒 0分 約60分 61分 重要: 皮膚の柄が昼に戻る時間と、脳の電気が昼に戻る時間が、ほぼ同じ1分間で重なった。
眠っているあいだ、およそ60分に1回、1分ほどの「起きているような眠り」が挟まりました。体表の柄と、脳の電気が、同時に「昼」に戻る——ここが今回の論文の中心です。

この数字の正しい読み方

ここが心臓部です。「タコが夢を見ている」——そこまで飛んではいけません。4つに分けます。

1つめ。「夢」と言うには、内側の体験が必要です。 この論文が測ったのは、外から見える皮膚の柄と、電極で読み取れる電気の動きだけです。タコが何かを「思い浮かべていた」かどうかは、この方法では調べられません脳の状態が「起きているとき」と似ていた、というのは、「夢を見ていた」よりずっと弱い主張です。ここは論文の中で著者自身が念を押しています。

2つめ。数個体・数日間の観察です。 タコは実験室で長期間飼うのが難しく、この論文が扱えたのはごく限られた個体数と時間です。「1時間に1分」という間隔も、この個体群の平均で、種全体・年齢層全体に当てはめるにはさらに広い観察が要ります

3つめ。「REM睡眠と同じ」ではなく「REM睡眠と似ている」です。 私たち哺乳類のREMと、鳥のREMは、その働きが完全に同じかどうかも実はまだ分かっていませんそこに“系統がまったく違う”タコを並べたときの類似は、「見た目が似ている」までで、機能まで一致しているかは別の証明が要る。「同じ夢を見ている」と単純化するのは、まだ根拠がありません。

4つめ。オキナワサザナミダコ1種の話です。 タコは世界に約300種いて、単独で暮らすもの、群れるもの、深海に潜るもの、いろいろです同じ「起きているような眠り」を、みんな持っているかは、これから確かめるしかありません

◆ 誤解されやすい点:「見えているもの」と「感じているもの」は別

この論文が示したのは、「眠っているタコの皮膚と脳の電気が、1時間に1分だけ“起きているとき”とそっくりに戻る」という観察です。 「タコの心の中で何が起きているのか」を測る方法は、まだ生きもの科学の中に無いのです。 「夢を見ている」というのは、この論文にとっては“分かりやすい呼び方”であって、証明された事実ではありません

世の中の動き

この論文がNatureに載った日、SNSでいちばん動いたのは実験の映像そのものでした。

論文が発表された当日、Neuroscience Newsによる紹介

神経科学の専門ニュース Neuroscience News による論文紹介です。タイトルは「タコの睡眠中の、起きているような皮膚の柄と、神経の活動」——ここに、この論文の主張が正確に収まっています。「夢」ではなく「起きているような皮膚の柄と神経の活動」。原論文が引いた慎重な線がそのまま残っている、いい要約です。

数年後、映像単独が拡散した

数年経ってからバズった、映像単独の投稿。「as she dreams(夢を見ている)」という一言が付いただけで、映像の受け止められ方が変わって拡散したのが分かります。元論文は「夢」と書いていないのですが、SNSでは短い言葉のほうが遠くまで運ばれる——この論文の受け取られ方に、いちばん影響したのはたぶんこの現象です。

FIGURE 02 / この論文の射程

「言えたこと」と「まだ言えないこと」

この論文が示したこと ・タコの眠りに、2つの状態があった ・約60分に1回、約60秒の「昼の状態」 ・そのとき皮膚の柄は「起きているとき」と類似 ・同時に脳の電気も「起きているとき」と類似 ・脊椎動物のREM睡眠と外形が似た2段構え = 外から見える現象と、脳の電気の一致 この論文からは言えないこと ・「タコが夢の中身を体験している」 ・脊椎動物のREMと機能まで同じか ・他の種類のタコでも同じか ・「起きたような眠り」の生物学的な役割 ・眠りを妨げると何が起きるのか = 次の研究が必要なところ
左が今回の到達点、右がまだ確かめられていない領域。「タコが夢を見ていた」という言い方は、左と右のあいだを跨いでしまっているのが分かります。

まとめ

  • 2023年6月、Nature誌にOISTのサム・ライター氏らの論文が掲載
  • 眠っているタコには、「静かな眠り」と「起きているような眠り」の2つの状態があった
  • 「起きているような眠り」は、およそ60分に1回、約60秒だけ現れた
  • そのとき皮膚の柄と脳の電気の動きが、両方とも「起きているとき」と類似のパターンに切り替わった
  • 形としては、脊椎動物のREM睡眠に似た2段構えの眠りだった
  • ただし「タコが夢を見ていた」という言い方は、この論文からは飛びすぎ

▲ ここはまだ分かっていない

この論文はオキナワサザナミダコの限られた個体を対象にした室内観察で、種を越えた一般化はまだできません。「起きているような眠り」の生物学的な意味(記憶の整理、体の修復、単なる副産物、など)も分かっていません。「タコに夢がある」と読むには、内側の体験を測る方法が必要ですが、そのような方法はいまの生物学の中にまだありません。今回の発見は「REM睡眠に似た形」までであって、「REM睡眠と同じ意味」までは言えないことに注意してください。

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SOURCES / 出典

  1. 原論文: Pophale, A., Shapiro, K., Reiter, S. et al. "Wake-like skin patterning and neural activity during octopus sleep". Nature 619, 129–134(2023年6月28日). doi:10.1038/s41586-023-06203-4
  2. 論文ページ: Wake-like skin patterning and neural activity during octopus sleep(Nature)
  3. OISTプレスリリース: Octopuses alternate between two different sleep stages(沖縄科学技術大学院大学)
  4. 研究者について: Computational Neuroethology Unit(OIST・Sam Reiter氏)

※ 数値(2つの睡眠状態、静かな眠りから起きたような眠りまでの間隔約60分、起きたような眠りの継続時間約60秒、対象種オキナワサザナミダコ)は、原論文および掲載誌の記述に基づきます。 「REM睡眠と似た形」という表現は、外形の類似について論文が用いた比較であり、機能まで同等であるという主張ではありません。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。