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【衝撃】「世の中せわしなくなった」は数字で否定された…米国はむしろ遅くなっていた

通知が鳴り続け、予定は分単位で埋まる。「昔より世の中がせわしなくなった」——これはもう、疑う人のいない共通認識です。ところが、その前提を実際の記録で確かめると、逆の数字が出てきました2026年3月、専門誌『Humanities and Social Sciences Communications』に、時間管理の研究者ブラッド・エイオン氏が出した論文の話です。タイトルはそのまま「生活のペースは速くなっていない」米国の生活時間調査で2003年から2019年を追うと、1日にやった活動の種類も、場所を移った回数も、時間の細切れ具合も、いずれも減っていた睡眠時間はむしろ増え、「いつも急かされている」と答えた人は2004年の31%から2016年には22%まで下がっていました。さらに——インターネットへの接続は、速いペースではなく“遅い”ペースと結びついていたのです。

31→22%
「いつも急かされている」と答えた米国人の割合(2004年→2016年)。
2003-19年
生活時間調査から生活のペースを追いかけた期間。
睡眠
同じ期間に増えていたもの。加速説なら減るはずだった。
ネット有
インターネット接続があると結びついていた、生活ペースの向き。

「昔より忙しい」は、ほぼ全員の実感である

スマホが鳴り、通知が積み上がり、予定は分単位で埋まっていく。「昔より世の中がせわしなくなった」——これは、いまや疑う人のいない共通認識です。「加速する社会」「タイムパフォーマンス」といった言葉も、その前提の上に建っています

ところが、その前提を実際のデータで確かめた人は、驚くほど少なかった2026年3月、専門誌『Humanities and Social Sciences Communications』に、ブラッド・エイオン氏(時間管理の研究者)が出した論文が、その空白に入りました。タイトルはそのまま「生活のペースは速くなっていない(The pace of life is not getting faster)」です。

加速しているという実感のほうが、データと合っていなかった。

論文を書いた本人が、時間について話している講演

時間管理の哲学について語るブラッド・エイオン氏のTEDx講演

The Philosophy of Time Management/TEDxConcordia。今回の論文の著者ブラッド・エイオン氏による講演です。「時間管理は、効率のテクニックではなく“何に時間を使うか”という問いだ」という、この人の一貫した立場が分かります。今回の論文が、なぜ「本当に速くなっているのか」を数字で確かめにいったのか——その動機が見えてきます(英語)。

日記のようなデータで、1日を分解する

「生活のペース」は、そのままでは測れません。エイオン氏が使ったのは、生活時間調査という種類のデータです。

◆ ひとことで言うと

生活時間調査=「昨日1日、何時から何時まで、どこで何をしていたか」を全部書き出してもらう調査です。 日記に近い。米国ではアメリカ生活時間調査(ATUS)として毎年おこなわれていて、 何万人ぶんもの“1日の記録”が積み上がっています。 「忙しいと感じるか」というアンケートと違って、実際にやったことの記録である点がミソです。

そこから、エイオン氏は「ペースの速さ」を次のような形に分解しました。

  • ①活動の種類の多さ——1日のうちに、何種類のことをやったか
  • ②場所を移った回数——家、職場、店、と移動を何回したか
  • ③時間の細切れ具合——1つのことを続ける時間が、どれだけ短く分断されているか
  • ④睡眠時間——削られる余地がいちばん大きい時間

そのうえで、米国の2003年から2019年までの変化を追いました。さらに、「いつも急かされている感じがするか」という主観のほうも、別の調査から引いています。

ここが意外① 細切れ具合も、移動の回数も、減っていた

結果です。2003年から2019年にかけて、米国では①活動の種類の多さ、②場所を移った回数、③時間の細切れ具合が、いずれも減っていました。そして④睡眠時間は、逆に増えていました

4つとも「加速している」の反対を向いていることになります。

主観のほうも同じでした。「いつも急かされている」と答えた米国人の割合は、2004年の31%から、2016年には22%まで下がっていたのです。

「みんな忙しくなったと感じている」という前提そのものが、少なくとも米国では、数字と食い違っていた——ここが今回のいちばんの発見です。

ここが意外② インターネットがあると、ペースは“遅く”なる

2つめの分析はさらに直感に逆らいます。インターネットへの接続があることは、生活のペースが“速い”ことではなく、“遅い”ことと結びついていました。

言われてみれば、筋は通ります。ネットがあるおかげで、やらずに済むようになった移動と待ち時間を思い浮かべてください。役所に行かずに手続きが終わる。銀行に並ばない。買い物のために店をはしごしない。地図を見るために立ち止まらない。 減ったのは、活動の“合間”にあった細切れの時間です。

エイオン氏の見立ては、「技術は生活を一律に加速させたのではなく、時間の使い方の自由度を上げた」というものです。私たちが「せわしない」と感じているものの正体は、活動の量そのものではなく、別の何かかもしれない——という問いがここから出てきます。

では、なぜ私たちは「忙しい」と感じるのか

忙しさの本当の理由を論じるドリー・クラーク氏のTED講演

The Real Reason You Feel So Busy (and What To Do About It)/TED。ドリー・クラーク氏が「忙しい」の正体を分解する講演です。メールや会議は忙しさの“表れ”であって“原因”ではない、そして「めちゃくちゃ忙しい」は社会的に許された自慢の言い方になっていると指摘します。今回の論文が突きつけた「実際には忙しくなっていない」というデータと、正面から噛み合う話です(英語・日本語字幕あり)。

FIGURE 01 / 米国の2003→2019年

4つの指標が、そろって逆を向いた

指標 2003→2019年の向き 「加速」説なら 1日にやった活動の種類 減った 増えるはず 場所を移った回数 減った 増えるはず 時間の細切れ具合 減った 増えるはず 睡眠時間 増えた 減るはず 「いつも急かされている」と答えた割合 31% → 22% (2004年→2016年) 増えるはず ※ 対象は米国。生活時間調査(ATUS)と、主観を尋ねた別調査にもとづく。国が変われば向きも変わる(第5章参照)。
「加速している」なら上向くはずの指標が、そろって逆を向きました。とくに睡眠時間が増えているのは、“削れる時間から削られる”という加速のイメージと真っ向からぶつかります

この数字の正しい読み方

ここがこの記事の心臓部です。「忙しいというのは気のせいだった」——そこまで飛んではいけません。4つに分けます。

1つめ。この結果の中心は、米国の2003〜2019年です。 2020年以降、つまりコロナ禍とそれ以降のリモートワークの時代は入っていませんいま私たちが「せわしない」と感じている生活は、この分析の範囲の外側にある可能性があります。ここは今回いちばん大きな留保です。

2つめ。国によって向きが違いました。 論文の3つめの分析では複数の先進国を比べていて、「仕事の速さが増した」と感じる人が減った国もあれば、増えた国もあった「世界中で生活が遅くなっている」とは、この論文も言っていません日本のデータがどうなるかは、この論文からは分かりません。

3つめ。「平均」は、誰か1人の生活ではありません。 全体の平均で睡眠が増えていても、その裏で、忙しさが特定の層に集中して重くなっている可能性は消えていません幼い子どもがいる共働き世帯、介護を抱えた人、複数の仕事を掛け持ちしている人——平均が下がることと、その人が楽になることは、まったく別の話です

4つめ。「活動の数」と「心の忙しさ」は同じではありません。 場所を移る回数が減っても、通知が一日中鳴り続けていれば、注意は細切れになります生活時間調査は「何をしていたか」を記録しますが、「そのあいだ何に気を取られていたか」は記録しませんこの論文が測ったのは“行動のペース”であって、“注意のペース”ではない——ここは分けて読む必要があります。

◆ 誤解されやすい点:「忙しさは幻」ではない

この論文が示したのは、「米国の2003〜2019年について、生活のペースを表すいくつかの指標が、加速ではなく減速の向きに動いていた」という観察です。 「あなたが忙しいと感じるのは思い込みだ」とは書かれていません。 むしろ論文が投げかけているのは、「では、その忙しさの感覚はどこから来ているのか」という次の問いのほうです。

世の中の動き

「忙しさ」をめぐる議論は、いまでは時間の使い方の話というより、“忙しさが何を意味するようになったか”の話になっています。

「忙しい」が地位の証になった、という指摘

「かつては、ひまであることと、あくせくしないでいられることが成功のしるしだった」という趣旨の投稿。歴史的には、忙しさは“下の身分”の側にあるものでしたそれが逆転して、いまは「予定が埋まっていること」が価値の証明として扱われている——今回の論文の結果を読み解くうえで、外せない補助線です。

「忙しい」と「進んでいる」は別だ、という指摘

「タブを47個開けて、ノート1冊ぶんのやることリストを抱えているのに、“今週なにを成し遂げたか”と聞かれると答えられない」という趣旨の投稿。忙しさは名誉のバッジではない、と続きます。行動の量が増えていないのに忙しさの感覚だけが強いという、今回の論文が示した食い違いを、生活実感の側から言い当てています。

FIGURE 02 / この論文の射程

測ったもの、測っていないもの

測ったもの ・米国 2003〜2019年の生活時間記録 ・活動の種類 / 移動回数 / 細切れ具合 ・睡眠時間 ・「いつも急かされている」の回答割合 ・インターネット接続の有無との関連 = 行動として記録できるもの 測っていないもの ・2020年以降(コロナ禍とその後) ・日本のデータ ・特定の層(育児・介護・兼業)への集中 ・通知による注意の分断 ・忙しさの“感じ方”の中身 = 今回の設計の外側
左が論文の射程、右がその外側。「生活は速くなっていない」という結論は、左の範囲でだけ成り立ちます。とくに2020年以降が入っていないことは、この論文を読むうえで最初に押さえるべき点です。

まとめ

  • 2026年3月、『Humanities and Social Sciences Communications』にブラッド・エイオン氏の論文が掲載
  • 米国の生活時間調査(2003〜2019年)で、活動の種類・移動回数・時間の細切れ具合がいずれも減った
  • 同じ期間に睡眠時間は増えていた
  • 「いつも急かされている」と答えた米国人は、2004年の31%から2016年の22%へ減少
  • インターネット接続は、速いペースではなく遅いペースと結びついていた
  • ただし国によって向きは違い、2020年以降と日本のデータはこの分析に入っていない

▲ ここはまだ分かっていない

この論文の中心的な分析は米国の2003〜2019年を対象としており、コロナ禍以降の変化は含まれていません。国際比較では、仕事の速さの感じ方が減った国と増えた国の両方が確認されています。日本については分析されていません。また、これは全体の平均を見た研究であり、育児・介護・兼業などで忙しさが集中している層の状況は、平均の動きからは読み取れません。生活時間調査は「何をしていたか」を記録しますが、通知やマルチタスクによる注意の分断は記録しないため、「行動のペース」と「感じるせわしなさ」は分けて考える必要があります。

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SOURCES / 出典

  1. 原論文: Brad Aeon, "The pace of life is not getting faster". Humanities and Social Sciences Communications, 2026年3月6日. doi:10.1057/s41599-026-06740-z
  2. 論文ページ: The pace of life is not getting faster(Humanities and Social Sciences Communications)
  3. データ: American Time Use Survey(米労働統計局)
  4. 著者について: What Time Management Is, And How It Affects Our Lives(Brad Aeon)

※ 数値(米国2003〜2019年の活動の種類・移動回数・時間の細切れ具合の減少、睡眠時間の増加、「いつも急かされている」31%→22%、インターネット接続と遅いペースの関連)は、原論文および論文ページの記述に基づきます。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。