「くよくよ考える」の害は、日本のほうが小さかった
嫌なことを何度も思い返してしまう。この「反芻(はんすう)」は、心を削る悪い癖として語られてきました。ところが日米439人のスマホを1週間ジャックした研究で、その削られ方に国差があることが分かりました。しかも、削られる場所が違っていたのです。
1日8回、スマホが「いま何を考えていますか」と聞いてくる
研究チームがやったことは、かなり強引です。参加した大学生のスマホに専用アプリを入れ、1日8回、7日間にわたって不意に通知を送りました。鳴ったらその場で、いま自分がどんな状態かを答えてもらう。心理学で「経験サンプリング法」と呼ばれるやり方です。
聞かれる内容はシンプルでした。「いま、自分を嫌な気持ちにさせていることに、どれくらい意識が向いていますか」。これを9段階で答える。あわせて、落ち込み・絶望感・孤独感といった苦しさの度合いと、生活満足度・体調・人とのつながりといった充実感も記録します。
この方法の強みは、後から思い出して答えるアンケートではないことです。「私はよくくよくよするタイプです」という自己申告ではなく、その瞬間に本当にくよくよしていたかを、1週間ぶん積み上げる。記憶の美化や思い込みが入りにくくなります。
反芻は、どちらの国でも充実感を下げていた
まず、国を問わず確認されたことから。嫌なことに意識が向いているときほど、その時点での充実感は低くなっていました。アメリカでも日本でも、方向は同じです。
これ自体は驚く話ではありません。嫌なことを考えている最中に「人生は充実している」と感じる人は、そう多くないでしょう。反芻がその場の気分を下げること自体は、両国に共通していました。
研究チームが見たかったのは、その先です。同じだけ反芻したとき、下がり方まで同じなのかどうか。
目から鱗① 同じだけ考え込んでも、日本のほうが落ちにくい
ここが今回の中心です。反芻と充実感の低下の結びつきは、アメリカのほうが強く、日本のほうが弱いという差が出ました。論文のタイトルがそのまま「日常の反芻は、日本よりアメリカで心理的健康の悪化と結びついている」となっているとおりです。
同じように嫌なことを考え込んでいても、そこから受けるダメージの大きさが国によって違う。日本の学生のほうが、反芻から充実感へのダメージが小さかったわけです。
「日本人は我慢強いから」という話ではありません。次の結果を見ると、その解釈は成り立たなくなります。
同じだけ考え込んでも、削られる量が国によって違った。
FIGURE 01 / 比較
誰を、どれだけ調べたのか
目から鱗② 苦しさとの結びつきは、両国でほぼ同じだった
反芻と「苦しさ」——落ち込み、絶望感、孤独感——の結びつきについては、両国でほぼ同じ強さでした。日本の学生が反芻しても平気だった、という話ではまったくないのです。
つまり、こう分かれています。反芻が苦しさを連れてくる度合いは同じ。けれど、その反芻が「充実感」まで削る度合いは、日本のほうが小さい。同じ行為が、2つの指標に別々の影響を与えていました。
苦しいことと、充実していないことは、別々に成り立ちます。日本の学生は、くよくよしながらも「それはそれとして、生活は悪くない」と切り離せている——データはそう読める形になっています。
なぜ差が出るのか、そして出ないのか
研究チームは、文化によってネガティブな感情の位置づけが違うことを背景に挙げています。落ち込みや不安を「取り除くべき異常」と捉える文化と、「人生に当然あるもの」と捉える文化では、同じ落ち込みに対する二次的な反応が変わります。
後者では、くよくよしている自分を見つけても「またやっている、自分はダメだ」という二段目の落ち込みが乗りにくい。反芻そのものは起きても、そこから充実感が崩れるまでの距離が遠くなる、という筋道です。
ただしこれは、この研究が直接測って確かめた話ではありません。測ったのは反芻の量と、そのときの苦しさ・充実感だけです。理由の部分は、あくまで結果に対する解釈として置かれています。
この研究が言っていないこと
大事な線引きを3つ。まずこれは観察研究です。反芻したから充実感が下がったのか、充実感が下がっていたから反芻しやすかったのか、この設計では決められません。両方が同時に起きている可能性もあります。
次に、参加者は全員が大学生です。アメリカ側はワシントンD.C.とセントルイスの私立大、日本側は東京の国公立大。同世代・同じ学生という限られた層で、しかも2カ国だけの比較です。「日本人は」と一般化するには足場が狭すぎます。
3つ目に、研究チーム自身が反芻の測り方が粗いことを限界に挙げています。今回聞いたのは「嫌なことにどれだけ意識が向いているか」だけで、解決策を探しているのか、ただ同じ場面を反復再生しているのかを区別していません。この2つは、心への効き方がまるで違うと考えられています。
まとめ
- 反芻がその場の充実感を下げること自体は、日米どちらでも確認された
- ただし下げる強さはアメリカのほうが大きく、日本のほうが小さかった
- 一方で、反芻と落ち込み・孤独感の結びつきは両国でほぼ同じだった
- 日本の学生は「苦しいが、生活は生活」と切り離せている可能性がある
- 観察研究で、参加者は日米の大学生のみ。原因と結果の向きは確定していない
▲ ここはまだ分かっていない
反芻が原因なのか結果なのかは、この設計では決められません。また「解決策を探す考え込み」と「同じ場面の反復再生」を区別していないため、どちらが効いているのかも未解明です。参加者が大学生に限られている点も、そのまま社会全体には広げられません。
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- 報道: Psychology research suggests a common response to negative emotions is worse for you in certain countries(PsyPost)
- 原論文: Rumination in Daily Life Is Linked to Poorer Psychological Health in the United States Than in Japan. Social Psychological and Personality Science. doi:10.1177/19485506251407414
※ 図解のうち、本研究に由来しない比較値は桁感を示すための概算です。各図のキャプションに区別を明記しています。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。訂正履歴を残して修正します。