【衝撃】海辺のカモメ、話しかけると「歩いて」逃げるだけ…叫ぶと約半数が飛び立った
海辺のフィッシュ&チップスをかっさらうことで有名な、英国のセグロカモメ。追い払おうと「あっち行け!」と叫ぶ人はいますが、あれに本当に効き目があるのかを、まじめに数字で測った人は少数派でした。2025年11月、英国エクセター大学のクレメンティーヌ・レミィ氏らのチームが、専門誌『Biology Letters』に出した論文は、その空白を埋めます。9つの海辺の町、61羽のセグロカモメを相手に、目の前にポテトチップスを置いて、スピーカーから3種類の音を流した——男性が叫ぶ声、同じ男性が普通に話す声、コマドリのさえずり。叫び声には約49%が1分以内に飛び立ち、話し声には15%が飛び立った。しかも飛ばなかった大半のカモメも、話し声のときは黙って歩いて離れていたのです。ただし、この実験で試されたのは男性5人ぶんの声だけ。「女性の声でも同じか」までは、今回の設計では答えが出ていません。
「叫ぶより静かに追い払え」は本当か
英国の海辺の町でアイスクリームやフライドポテトを買うと、必ずと言っていいほどセグロカモメが上空にいる。ちょっと油断すると、頭上から急降下して食べ物をかっさらっていく。被害額は英国だけで年間数百万ポンドとも言われ、"あっち行け"と大声で追い払う住民もいれば、"驚かすと逆に襲われる"と静かに手で払う人もいる。どちらが正しいのか、実は科学的にはっきりしていませんでした。
これまでの動物行動学の常識では、「野生動物は人間の声そのものを気にしない」とされてきました。犬や馬のように、長く人間と暮らしてきた種は別。野生の鳥に人間の声の"言い方の違い"を聞き分ける力があるかは、実験で示された例が乏しかったのです。
◆ ひとことで言うと
セグロカモメ(ハーリング・ガル)=英国など北欧の海辺に住む大型のカモメ。人間の食べ物を狙うことで有名。近年、繁殖数が減っていて英国では保護指定種でもある。
音響特性(おんきょうとくせい)=声の中身(言葉)ではなく、声の高さ・速さ・鋭さ・強さといった「音としての形」のこと。叫び声と話し声は、言葉は同じでも音響特性がまるで違う。
コマドリ=英国のシンボル鳥のひとつ。ここではカモメが警戒しない"普通の生活音"の代表として、コントロール(比較用)に選ばれた。
プレイバック実験=野生動物の目の前でスピーカーから録音した音を流し、反応を測る動物行動学の定番のやり方。
今回の研究をやったのは、英国エクセター大学のニーリー・ボーヘルト准教授のグループで、筆頭は大学院生のクレメンティーヌ・レミィさん。この研究室はもともと、「セグロカモメに、フェイクの目玉模様で睨み返すと食べ物を守れるか」など、ユニークな"カモメ対策"の実験を続けてきたグループです。今回の疑問は「声」でした。
61羽、9つの町、5人の男声
実験のやり方はきわめて素直です。英国コーンウォール州の海辺の町9か所で、1羽ずつセグロカモメを見つけ、その目の前およそ数メートルの位置にポテトチップスを一袋、封を開けて置く。カモメが近づいてきたところで、少し離れた場所のスピーカーから、あらかじめ録音しておいた次の3種類の音のうち1種類を流す——。
- ①男性5人が「あっち行け!(Go away!)」と怒鳴った声
- ②同じ男性5人が同じ言葉を普通の音量で話した声
- ③コマドリのさえずり(カモメが警戒しない対照音)
音量は3種類すべて同じレベルにそろえてあります。ここが大切で、「叫ぶ=大きい音だから逃げる」ではなく、「同じ音量でも、音の形の違いで反応が変わるか」を測る設計になっています。参加した合計61羽の反応を、1分間ビデオで記録し、飛び立ったか / 歩いて離れたか / そのまま食べ物のそばに居続けたか、を数え上げました。
ここが意外① 話し声だと"歩いて"離れる
結果です。怒鳴った声(①)を流したとき、およそ49%——ほぼ半数——のセグロカモメが1分以内に飛び立ち、食べ物から離れました。残りも大半は歩いて離れています。ずっと居続けたカモメは少数派でした。
いっぽう、同じ人物が普通の音量で同じ言葉を話した声(②)では、飛び立ったのは15%まで下がった。ただし面白いのは、「じゃあ話し声は効かないのか」というと、そうではなかったことです。飛び立たなかったカモメの多くが、静かに歩いて食べ物から離れていった。「飛ぶほどではないが、居心地は悪い」という反応を、話し声はきちんと引き出していました。
話し声だと、飛び立ちはしない。でも、歩いて離れる。
コントロール(比較用)として流したコマドリのさえずり(③)では、70%が食べ物のそばに居続けた。「同じ音量なのに、鳥のさえずりならほとんど気にせず、人の声だと反応する」——ここが今回のいちばんの発見です。セグロカモメは、聞こえてくる音の中に"人間"を聞き分けていることになります。
ここが意外② 聞いていたのは言葉ではなく「音の形」
もう1つの発見が、カモメが読み取っていたのは"言葉"ではなく"音響特性"だったという点です。今回の実験で流したのは、叫び声も話し声も同じ「Go away!(あっち行け)」でした。「言葉の意味」を英語のカモメが理解している、という話ではありません。反応の差を生んだのは、怒鳴ったときと普通に話したときの、声の高さ・速さ・鋭さの違い。人間が聞いても「怒っている」と分かる、あの音の形です。
この結論の面白いところは、「野生動物が人間の"感情の乗った声"を聞き分けている」という報告としては、これが最初期の1つだ、と論文本人たちが述べている点です。犬や馬のように長く人間と暮らしてきた"家畜化された動物"では、飼い主の怒った声・落ち着いた声への反応差が知られていました。野生の鳥が、それを同じようにやっている、という証拠は乏しかったのです。エクセター大学のボーヘルト准教授は、今回のプレスリリースで「野生種でこれが観察されたのは、私たちが知る限りこれが初めて」と述べています。
FIGURE 01 / 3種類の音への反応
飛ぶ・歩いて離れる・居続ける
FIGURE 02 / この結果の届く範囲
言えること・言えないこと
この数字の正しい読み方
ここがこの記事の心臓部です。「よし、カモメに向かって叫べば食べ物を守れる」——そこまで飛んではいけません。この論文が言っていること、言っていないことを分けます。
まず、試した声は男性5人ぶんだけです。 女性の声、子どもの声、高齢の男性の声、非英語話者の声、そもそも録音でなく生の声だったら——これらは全部この実験の外側です。音響特性(音の形)で反応するというのが本当なら、"女性の甲高い叫び"はもっと効くかもしれないし、逆に低い声の"落ち着いた叫び"はあまり効かないかもしれない。ここは今回のデータでは何とも言えません。
次に、61羽の内訳です。 実験はコーンウォール州の9つの町で行われました。同じ町の同じ日に、同じ個体を2回数えてしまった可能性を、屋外の実験では完全には消せない——このタイプの野外実験に共通の弱点です。論文自身が「同一個体の重複を最小限にする配慮はした」と書いていますが、"実験室のように厳密"ではありません。
それから、「歩いて離れる」の意味です。 15%しか飛び立たなかった話し声でも、残りの多くは歩いて離れました。これを「話し声も効いた」と言うのはOKですが、「歩いて離れたカモメが、その後戻ってこないか」までは1分の記録では分かりません。飛び立ったカモメと歩いて離れたカモメで、食べ物が守られる時間が同じかどうかも、今回は測っていないのです。
最後に、「学習」の問題です。 何度も同じ声で叫んでいるうちに、カモメが「これ、本当は攻撃されない声だ」と学んで慣れてしまう可能性は十分ある。この実験は、初めてその声を聞いたカモメの1回目の反応を測っただけ。長期の効き目は、また別の実験が必要です。
それでも、「野生の鳥が、人間の声の"言い方の違い"を音のレベルで聞き分けている」ことを、屋外の環境で数字にして示した意義は大きい。ここが今回の勘所です。
世の中の動き
論文が出た2025年11月、英国のBBC、Guardian、ITV Newsなど大手メディアが即座に報じました。「フィッシュ&チップスを守りたいなら、叫べ」という見出しで一気に広がり、SNS上でも旅行者向けのTipsとして拡散されています。エクセター大学の同じグループは、以前から「カモメに向かって"目"を描いたパネルを向けると食べ物を守れる」という研究も出しており、"実用的な鳥対策研究"のシリーズとして扱われるようになっています。
科学コミュニケーターとして著名なMassimo(@Rainmaker1973)の投稿。今回の"叫べば効く"論文と同じエクセター大学のグループが出した、"偽の目玉でにらみ返すとカモメが引く"という別論文を紹介しています。同じ研究室が、視覚(にらみ)と聴覚(声)の両方でカモメ対策の実験を積み上げていることがうかがえます。
BBCニュースの2024年9月の投稿。英国沿岸部でセグロカモメが子どもを襲うケガの事例が"手に負えない"レベルで増えていると伝えています。「叫ぶ」で本当に距離を取れるなら、旅行者の被害防止にも意味を持つ——だから今回の研究が単なる面白ネタでは済まない、というのがここの空気です。
◆ 誤解されやすい点:「叫べば必ず守れる」ではない
この論文が示したのは、「叫び声を聞いたセグロカモメの約半数が1分以内に飛び立った」「話し声のときも大半が歩いて離れた」という初回反応の話です。 何度も繰り返せば慣れる可能性、女性の声で同じかどうか、他のカモメ種で同じかどうかは、この実験では答えが出ていません。 そもそも近年、英国のセグロカモメは繁殖数が減っていて保護指定種でもあります。 威嚇して怪我をさせるのは、法律の側から見ても勧められる話ではない。ここは押さえておきたい点です。
まとめ
- 2025年11月、Biology Letters に英エクセター大学のチームが論文を発表
- コーンウォールの9つの町で61羽のセグロカモメに、3種類の音を流した実験
- 叫び声には約49%が飛び立ち、話し声には15%が飛び、残りは歩いて離れた
- コマドリのさえずりには約70%が居続け、"人の声"だけ反応が出た
- 言葉の意味ではなく、声の"音の形"を聞き分けている
- ただし、試したのは男性5人ぶんの声だけで、女性・子どもの声は未検証
▲ ここはまだ分かっていない
この研究は英国コーンウォール州の限られた地域で、男性5人ぶんの声を使って行われた1回目の反応の記録です。女性・子ども・高齢者の声、他のカモメ種、他の地域で同じ結果が出るかは、この設計では答えが出ません。また、繰り返し叫んだ場合に慣れが起きるかも測っていません。英国のセグロカモメは保護指定種であり、威嚇の目的で近づいたり、意図的にケガをさせる行為は違法です。この記事は、そうした行為を勧めるものではありません。
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- 原論文: Clémentine M. I. Rémy, Neeltje J. Boogert et al., "Herring gulls respond to the acoustic properties of men's voices". Biology Letters, 2025年11月12日. doi:10.1098/rsbl.2025.0394
- プレスリリース: Shouting at seagulls could stop them stealing your food(University of Exeter)
- 報道: Shouting at seagulls could stop them stealing your food, scientists suggest(phys.org)
- 報道: Want to stop seagulls stealing your food? Try shouting at them(ITV News)
※ 数値(61羽・9町・叫び声で約49%飛び立ち・話し声で15%飛び立ち・コマドリのさえずりで約70%が居続ける)は論文本文および University of Exeter のプレスリリースに基づきます。 誤りを見つけられた場合はご連絡ください。