撮り鉄少年7人、数千万円賠償はなぜ自己破産でも消えないのか
電車を止めた回数をSNSで自慢し合っていた撮り鉄少年7人が、千葉中央署に書類送致された一件が波紋を広げている。弁護士による解説では、鉄道会社への損害賠償は数千万円規模になり得るうえ、自己破産をしても支払い義務が消えない可能性が高いという。なぜ、SNS上のわずかな承認のために、人生を左右しかねない金額のリスクを背負ってしまうのか。法律の仕組みと、10代の脳とSNSが重なって生む「見えないリスク」の両面から読み解く。
少年たちが競っていたもの
千葉中央署は8月19日、千葉県・埼玉県在住の14〜17歳の少年7人を、業務妨害と鉄道営業法違反の疑いで千葉地検と千葉家裁に書類送致したと発表した。少年らはSNSで知り合った鉄道撮影仲間で、4月9日から5月9日にかけて、JR蘇我駅や東京駅などで非常用ドアコックのスイッチを操作して電車のドアを開閉させたり、茨城・埼玉・神奈川県内の踏切に侵入したりして、1都4県で計9件の遅延事件を起こしたとされる。
捜査に対し少年らは「どれくらい電車を遅延させたかを競っていた」「電車が遅れた理由が自分だと自慢したかった」と、いずれも容疑を認めている。愉快犯的な悪ふざけというより、仲間内での承認を求めた行動だったことがうかがえる。この経緯の詳しい流れは、先に公開した速報記事で整理している。
ここまでは、8月19日の書類送致の時点ですでに報じられていた内容だ。この一件が改めて注目を集めているのは、8月22日に弁護士JPニュースが報じた「その先」の話、つまり少年たちが実際に負うことになるかもしれない金額の重さだ。
- 賠償額は、鉄道会社に生じた損害の実額(運行停止による損失や利用客への補償費用など)を基準に算定される
- 遅延行為が繰り返され、長時間・多数回の運行障害が生じた場合は、通常より高額になり得る
- 少年でも責任能力があれば賠償義務を負い、自己破産をしても免責されない可能性が高い
この「数千万円」という数字は、決して大げさな脅し文句ではない。2023年5月に愛知県一宮市の踏切で車と列車が衝突した事故では、鉄道会社が計上した損害は、車両の修理費が約1,700万円、踏切など設備の復旧費が約3,100万円、振替輸送費が約460万円などを合わせて総額およそ7,800万円にのぼったと報じられている。今回の少年らが起こしたのは1都4県にまたがる9件の遅延事件であり、1件あたりの損害がそこまで大きくなくても、件数を重ねれば同じ桁に届く可能性は十分にある。
なぜ「消えるはずの借金」が消えないのか
自己破産といえば、抱えている借金がすべてゼロになる制度だと思っている人は多い。実際、多くの借金はそうなる。しかし破産法253条1項2号は、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」を、破産免責の対象から外れる非免責債権として明記している。ここでいう「悪意」は日常語の悪口のような意味ではなく、法律用語として「積極的に他人を害する意図」を指す。非常用ドアコックを操作して意図的に電車を止める行為は、この「悪意」に当たると判断される可能性が高いというのが、弁護士による解説の趣旨だ。
つまり、うっかり事故を起こした場合の賠償とは扱いが違う。わざとやったという一点が、後から自己破産で帳消しにできるかどうかの分かれ目になる。今回の少年らは「遅延を競っていた」と容疑を認めており、この「意図してやった」という事実そのものが、将来の免責を難しくする材料になりかねない。
「知らなかった」も「未成年だから」も、意図してやった被害には通用しない。
年齢についても、誤解されがちな点がある。未成年だから責任を問われない、と考える人は少なくないが、それは正確ではない。日本の裁判実務では、自分の行為の責任を理解する能力(責任能力)があるかどうかで判断が分かれ、明確な年齢の線引きはないものの、おおむね12歳前後が分岐点の目安とされている。14〜17歳の少年たちがこれを下回ると判断される可能性は低く、本人が民法709条にもとづき賠償責任を負う側に立つ可能性が高い。加えて、親の監督に不行き届きがあったと認められれば、親権者が別途責任を問われることもある。ただし、家族というだけで自動的に責任を負うわけではない。過去には、認知症の男性が起こした鉄道事故をめぐり、鉄道会社側が遺族に損害賠償を求めた裁判で、最高裁が「同居していただけでは監督義務者にあたらない」として遺族側の責任を否定した例もある。親の責任は、あくまで監督が現実にどこまで可能だったかという個別の事情で判断される。
もう一つ知っておきたいのは、請求額と実際の支払額は同じではないという点だ。鉄道会社側が損害の全額を計算上は請求できても、実際には加害者側の年齢や支払い能力を踏まえ、減額したうえで分割払いの和解に落ち着くケースが多いとされる。とはいえ、それは「金額が軽くなる」という話であって、「請求されない」という話では断じてない。数千万円という数字を出発点に交渉が始まる事実そのものが、少年たちの生活に長く影を落とすことに変わりはない。
10代の脳は、リスクを「見えなく」する
ここで浮かぶ疑問がある。数千万円という金額は、大人でも一生かけて返せるか分からない額だ。それだけの重みを、なぜ10代の少年たちは想像できなかったのか。答えの一部は、脳の発達段階にある。感情や衝動をつかさどる大脳辺縁系は10代の早い時期にほぼ成熟するのに対し、リスクと報酬を天秤にかけて判断する前頭前皮質は20代後半までかけてゆっくり育つ。この発達のズレが、10代でリスク行動が増えやすい一因とされている。
そこにSNSが重なる。「いいね」やコメントなど、他者から反応をもらうたびに脳内ではドーパミンが分泌されることが知られている。これはゲームやギャンブルへの依存を後押しする仕組みと同じ回路だ。仲間内のグループチャットで遅延時間を報告し合っていたという今回の構図は、この即時報酬を求める心理そのものに見える。「どれだけ遅らせたか」という数字を競う行為は、SNSの「いいね」の数を競う行為と、脳の中ではほとんど同じ構造をしている。目の前で反応がもらえる快感は具体的で強いのに対し、数か月後にやってくるかもしれない数千万円の請求書は、実感の湧かない抽象的な数字にすぎない。
鉄道趣味の分野では以前から、SNSの普及が撮影者どうしの競争意識を強め、マナー違反を後押ししているという指摘がある。承認欲求そのものは誰の中にもある自然な感情だが、その満たし方が「危険や違法を冒すこと」に向いてしまった瞬間、代償の大きさは本人の想像をはるかに超える。
「未成年に厳しすぎる」という反論への回答
ここまでの話には、当然強い反論がある。いちばん強いものを、自分で書いておく。
「相手はまだ未成年だ。更生のための手続きが優先されるべき局面で、賠償額の重さばかりを強調するのは酷ではないか。責任は本人だけでなく、監督が行き届かなかった家庭や周囲にもあるはずだ」。この批判は筋が通っている。少年法が本人の更生を目的に置いているのも事実であり、家裁送致後の手続きは、刑罰ではなく指導を軸に進む。先に触れた最高裁判例のように、裁判所自身が「家族だから当然に責任を負う」という単純な図式を否定してきた歴史もある。
それでも、私たちはこう考える。民事の損害賠償と、少年法上の更生手続きは、そもそも別のレイヤーで同時に動くものだ。更生を優先すべきだという話は、被害を受けた鉄道会社が実損害を請求できないという話にはならない。むしろ、「未成年だから、SNSの悪ふざけだから、いずれ帳消しになる」という思い込みこそが、今回のような行為を助長してきた側面がある。数千万円という数字が持つ重さを正しく知ることは、更生を妨げるものではなく、次に同じ行動へ向かいかけている誰かへの、いちばん具体的な警告になる。
数千万円規模の賠償、あなたはどう見ますか?
よくある質問
未成年でも損害賠償責任を負うのですか?
責任能力があると判断されれば、未成年であっても民法709条にもとづき本人が損害賠償責任を負います。判例上、責任能力の有無は個別の事情によりますが、おおむね12歳前後が分岐点の目安とされており、14〜17歳であれば責任能力ありと判断される可能性が高いと考えられます。
自己破産をすれば賠償金の支払いを免れられますか?
必ずしも免れられません。破産法253条1項2号は、悪意による不法行為にもとづく損害賠償請求権を非免責債権と定めており、自己破産をしても支払い義務が消えない場合があります。今回のケースについても、弁護士の解説では自己破産をしても逃れられない可能性が高いと指摘されています。
親にも賠償責任は及びますか?
未成年に責任能力がある場合でも、監督義務者である親の監督義務違反と行為との間に相当因果関係が認められれば、親が民法709条にもとづく責任を問われることがあります。ただし、家族というだけで自動的に責任を負うわけではなく、過去には最高裁が同居していた家族の監督義務者責任を否定した例もあり、実際に問われるかどうかは個別の監督状況によって判断が分かれます。
まとめ
撮り鉄少年7人が負うかもしれない数千万円という数字は、SNSでの一瞬の承認と、あまりにも釣り合わない代償だ。それでも同じような行動が繰り返されるのは、10代の脳がリスクを実感しにくい構造を持っているうえ、SNSがその場の快感だけを強く見せてしまうからだ。「バレても未成年だから何とかなる」という思い込みこそが、いちばん危険な誤解になる。
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