結婚に「メリットがある」と答えた男性が56%に急落、女性との差が縮まらない理由

結婚に「メリットがある」と答えた男性56%に急落、女性との差の理由
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

結婚に「メリットがある」と答えた人の割合が、男女ともに過去最低を更新しました。国立社会保障・人口問題研究所が2025年に実施した出生動向基本調査によるものです。落ち込んだ幅は男性も女性もほぼ同じでしたが、女性の数字は今回も男性より7ポイント以上高いままでした。景気や結婚観の変化だけでは説明しきれない、この「消えない差」の正体を追います。

男女とも過去最低、結婚の「利点」が薄れた

国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が2025年に実施した出生動向基本調査の結果が、2026年9月11日に公表されました。独身者6,756人と夫婦5,024組を対象にした調査で、結婚や出産への意識の変化を5年おきに追っています。

今回とくに注目されたのは、結婚に利点があると考える人の割合です。男性は56.3%で、前回2021年調査の63.3%から7.0ポイント低下しました。女性は63.4%で、前回の70.9%から7.5ポイント低下しています。どちらも比較可能な調査で過去最低です。あわせて、「一生結婚するつもりはない」と答えた18〜34歳の未婚者も男性24.0%、女性21.5%と、初めて2割を超えました。

📌 出典: 日本経済新聞毎日新聞(Yahoo!ニュース)厚生労働省。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

社人研は、経済的な問題から未婚者の一部が結婚の意思をなくすに至った可能性を指摘しています。ここまでは、多くのメディアが報じているとおりです。ただし、この調査結果には、報道であまり触れられていない、もうひとつの重要な事実があります。男性56.3%、女性63.4%という数字は、下がり方こそ同じでも、絶対水準では今回も女性の方が明確に高いという点です。

  • 結婚に利点があると答えた割合:男性56.3%(前回63.3%)、女性63.4%(前回70.9%)
  • 男女差:今回7.1ポイント、前回7.6ポイント。ほぼ変わらず残存
  • 「一生結婚するつもりない」:男性24.0%、女性21.5%。初の2割超え

この記事で扱いたいのは、「なぜ結婚の魅力が薄れたか」という、すでに多くの記事が書いている問いではありません。なぜ、薄れ方まで同じなのに、水準の差だけが5年前から変わらず残り続けるのかという、もう一段深い問いです。

消えたのは「社会的信用」という男の得

この差を考えるうえで手がかりになるのが、独身研究家の荒川和久氏が示している、結婚のメリット認識の中身の変化です。1987年から2021年にかけて、男性が結婚に感じるメリットの中心は「社会的信用」から「精神的安らぎ」へ移り、女性は「愛情」から「経済的余裕」へ移ったとされています。

この移り変わりは、単なる好みの変化ではありません。「社会的信用」は、独身であること自体が不利に見られる社会でしか成立しない得です。かつては、結婚していないと一人前と見なされない、昇進や信用に響く、といった空気が実際にありました。結婚することで得られたのは、愛情や生活の充実である以前に、「一人前の大人」という社会的な資格でした。

結婚が特別な資格でなくなった社会では、結婚で得られる「得」も一緒に薄まる。

ところが今回の調査が示すとおり、独身のまま一生を終えるつもりの人がすでに2割を超えています。独身であること自体が珍しくなくなった社会では、結婚しても「一人前になった」という周囲の評価は、以前ほど強く返ってきません。つまり男性にとっての結婚の得は、社会の側が独身に不寛容だった時代に成立していたボーナスであり、その前提が崩れれば、得だけが静かに消えていく構造だったと考えられます。残ったのは「精神的安らぎ」という、より個人差の大きい、感じる人と感じない人がはっきり分かれる得だけです。

一方で女性側が最終的に行き着いた「経済的余裕」は、個人の感じ方に左右されにくい、もっと具体的な得です。ここに、男女差が縮まらない理由の芯があると当編集部は見ています。

なぜ女性の方が7ポイント高いままなのか

「経済的余裕」という得が、なぜ女性側で強く残り続けるのか。答えの手がかりは、日本の賃金格差と社会保障制度の設計にあります。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2024年の一般労働者の月額賃金は、男性を100とした場合、女性は75.8です。1976年の比較開始以来もっとも格差が縮んだ水準ではあるものの、依然として女性の賃金は男性の8割に届いていません。この賃金差がある限り、夫婦のうち収入が低い側になりやすいのは、統計的にはいまも女性です。

そして日本の社会保障制度の多くは、「収入が低い配偶者」を優遇する設計になっています。配偶者控除は、年収が一定額以下の配偶者がいる納税者の税負担を軽くする仕組みです。厚生年金に加入する会社員の配偶者で、収入が一定基準を下回る人が保険料を払わずに国民年金を受け取れる第3号被保険者制度も同様です。当サイトの106万円の壁撤廃、10月からどうなる178万円の壁とは、2026年分からの変更点で取り上げてきた「壁」も、突き詰めれば同じ構造の入り口にある制度です。

これらの制度は性別を条件にしていません。しかし、収入が低い側が優遇される仕組みである以上、賃金格差がある社会では、結果として女性の方が制度上の恩恵を受けやすくなります。荒川氏の言う「経済的余裕」という得が、女性側で具体的な形を保ち続けているのは、感覚の問題ではなく、こうした制度上の裏付けがあるためだと考えられます。

ここは重要な点なので、あらためて整理しておきます。賃金格差そのものが女性に有利という意味ではありません。賃金格差という不利な条件のうえに、収入の低い側を支える社会保障が乗ることで、結果的に「結婚することの経済的な得」だけは女性側に残りやすくなっている、というねじれた構図です。

補足: 社人研の調査結果と、荒川和久氏が示すメリット認識の変化(1987→2021年、社会的信用→精神的安らぎ、愛情→経済的余裕)は、いずれも公表されている一次情報です。一方、賃金格差や配偶者控除・第3号被保険者制度が男女差の背景にあるという分析は、社人研や荒川氏が明言したものではなく、当編集部が制度の設計から導いた独自の解釈です。断定はせず、可能性のひとつとして提示します。

あなたは結婚に経済的なメリットを感じますか?

「メリットの話ではない」という反論について

ここまでの話には、当然、強い反論があります。いちばん有力なものを自分で書いておきます。

「結婚にメリットがないから結婚しないのではなく、結婚のハードルが上がりすぎて、メリットの有無以前に結婚に届かないだけだ」という見方です。実際、独身研究家の荒川和久氏は、20〜30代の独身男女のうち結婚に前向きな人の割合は、1990年代から30年以上にわたっておよそ5割で変わっていないと指摘しています。皆婚時代とほとんど変わらない水準の結婚意欲があるのに婚姻数だけが激減しているのなら、問題は「感じるメリットの量」ではなく「結婚という選択肢に手が届くかどうか」にある、という主張には強い説得力があります。

この指摘は正しいと考えます。それでも、私たちはこの記事の見方を取り下げません。ハードルの高さは「なぜ結婚できないか」を説明しますが、「なぜメリットの感じ方に男女で7ポイントの差が生まれ、それが5年経っても縮まらないのか」までは説明しません。ハードルは男女共通の壁です。共通の壁を越えられない人が増えているという説明だけでは、越えられなかった先にある「得」の感じ方に男女差が残る理由は埋まらないのです。

むしろ両方の説明は両立します。結婚のハードルが「できるかどうか」を決め、メリットの感じ方の男女差が「その先で、誰の意欲がより早く冷めるか」を決める。この違いは政策の効き方にも直結します。児童手当の拡充や「壁」の引き上げは、荒川氏の指摘どおりハードルを下げる効果があるはずです。しかし、男性側で失われたのが「社会的信用」という、お金では買い戻せない種類の得だとすれば、経済支援だけでは男性の利点認識は元に戻らない可能性があります。ハードルを下げる政策と、結婚の意味そのものを問い直す議論は、別の設計図として同時に必要だというのが、この記事のいちばんの主張です。

よくある質問

出生動向基本調査で「結婚にメリットがある」と答えた割合はどれくらいですか?

国立社会保障・人口問題研究所が2025年に実施した出生動向基本調査によると、結婚に利点があると考える人の割合は男性56.3%(前回2021年調査63.3%)、女性63.4%(前回70.9%)で、いずれも過去最低を更新しました。

なぜ女性の方が結婚にメリットを感じる割合が高いのですか?

断定はできませんが、当編集部は日本の賃金格差(2024年で女性の賃金は男性の75.8%、賃金構造基本統計調査)と、配偶者控除や第3号被保険者制度など収入の低い配偶者に有利な社会保障の仕組みが、統計的に女性側の経済的メリットとして残りやすいためではないかと分析しています。

「結婚にメリットを感じない」のと「結婚したいのにできない」は同じことですか?

違います。独身研究家の荒川和久氏は、20〜30代で結婚に前向きな人の割合はこの30年以上ほぼ5割で変わっていないと指摘しており、結婚への意欲そのものは大きく変化していません。「メリットを感じない」という回答の増加は、結婚したい気持ちが消えたというより、結婚のハードルの高さに気持ちが追いついていない状態を映している可能性があります。

まとめ

結婚に利点を感じる人は男女とも減っていますが、下がり方が同じだったからこそ、5年前から変わらない7ポイントの差が逆にくっきり見えました。その差を作っているのは、感覚の違いではなく、賃金格差の上に乗った社会保障制度という、極めて具体的な仕組みです。

配偶者控除や第3号被保険者制度、そして106万円や178万円の「壁」は、いままさに見直しの途上にあります。この土台が縮んでいけば、女性側の「経済的余裕」という得も次第に痩せていくはずです。次に社人研が同じ調査をする5年後、今度は女性側の利点認識が急落する番かもしれません。

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