「結婚したい」は8割超なのに、なぜ不本意未婚は増え続けるのか
「結婚したい」と思っている人は、いまも8割を超えています。それなのに、生涯未婚率は男性28.3%、女性17.8%まで上がりました。意欲はあるのに結婚できない——この状態を指す言葉が不本意未婚です。個人の魅力や努力の問題として片づけられがちですが、統計を丁寧に追うと、もっと構造的な理由が見えてきます。
「結婚したい」人は、この30年あまり減っていない
国立社会保障・人口問題研究所が2021年に公表した第16回出生動向基本調査によると、「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者は、男性が81.4%、女性が84.3%でした。前回の第15回調査(2015年)では男性85.7%、女性89.3%だったので、たしかに低下はしています。それでも、8割を超える人がいまも結婚を望んでいるという事実は変わりません。
一方で、50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合を示す生涯未婚率は、2020年の国勢調査をもとにした集計で男性28.3%、女性17.8%まで上昇しました。日本経済新聞などが報じているとおり、1990年時点では男性5.6%、女性4.3%だったので、30年で男性は5倍、女性は4倍に増えています。
ここに、見過ごされがちな矛盾があります。結婚したい人の割合はさほど減っていないのに、実際に結婚しない人だけが激増している。この差分こそが、「不本意未婚」と呼ばれる現象の正体です。意欲の低下だけでは、この数十年の変化を説明できません。
生涯未婚率の算出方法にも触れておきます。これは50歳時点で一度も結婚していない人の割合を示す指標で、その後の結婚を完全に否定するものではありません。ただし50代以降の初婚は少数派なので、実務上は「一生結婚しない人の割合」に近い数字として扱われています。だからこそ、この数字が30年で数倍になったという変化は、軽く見過ごせるものではありません。
婚姻そのものの件数も減り続けています。厚生労働省の人口動態統計によると、人口千人あたりの婚姻件数を示す婚姻率は、1970年の10.54から2022年には4.1まで下がりました。こども家庭庁がまとめた資料でも、少子化の主因のひとつとして未婚化が挙げられています。結婚したい人の割合はそこまで下がっていないのに、婚姻件数だけが大きく落ち込んでいる。この非対称性こそが、本稿で扱う問いの出発点です。
交際相手がいない人が7割を超える現実
同じ第16回出生動向基本調査は、交際相手の有無についても調べています。25〜29歳の未婚者のうち、交際相手がいないと答えたのは男性74%、女性67%。30〜34歳になると、男性86%、女性79%まで上がります。結婚したい年代であるはずの時期に、大半の人がそもそも交際相手を持てていません。
独身でいる理由として最も多く挙げられるのは「適当な相手にめぐりあわない」で、25〜34歳では男性43.3%、女性48.1%がこれを理由に挙げています。「自由や気楽さを失いたくない」「まだ必要性を感じない」といった価値観の理由よりも、明確に上回っています。
結婚したくないのではない。出会えていないだけだ。
経済的な要因も確かに関わっています。年収300万円未満の男性は50歳時点の未婚率が50%を超える一方、年収600万円以上では10%以下にとどまるという分析があります。雇用形態による差も無視できません。正社員に比べ非正規雇用の男性は結婚している割合が明確に低いことが、政府がまとめた資料でも繰り返し示されています。1990年代以降に非正規雇用が拡大したことも、実現率を押し下げた一因と考えられます。
出会いの手段そのものも様変わりしました。マッチングアプリの普及で「出会いがない」という状態は解消されたようにも見えます。しかし婚活支援サービスの分析では、マッチング成立から初デートまでに平均15.3日、10往復以上のメッセージのやり取りが必要とされ、この"やり取りの負荷"自体が新しい形の障壁になっているとも指摘されています。結婚したい人の割合が大きく変わっていないのに、実現率だけがここまで落ちた理由は、所得や出会いの手段の話だけに還元しきれません。
一部に集中する"恋愛強者3割の法則"
ここで参考になるのが、独身研究家としてYahoo!ニュースや東洋経済オンラインで長く発信している荒川和久氏の視点です。荒川氏は、恋愛市場を大まかに「強者3割・中間4割・弱者3割」に分けたとき、交際や結婚のチャンスがこの強者層に偏って集まりやすい構造があると指摘しています。
- 1970年代以前は、お見合いや職場の上司・同僚による紹介が結婚のきっかけの中心だった
- この仕組みは、恋愛の得意・不得意にかかわらず、一定の確率で相手が割り当てられる"ならし装置"として機能していた
- その後、お見合い結婚は急速に減り、「自由恋愛」がほぼ唯一の結婚の入り口になった
- 自由化によって、モテる人にモテる人がさらに集まりやすくなる一方、そうでない人には出会いの機会自体が回ってこなくなった
この構造の変化を理解するには、結婚のきっかけそのものが移り変わってきた歴史を振り返る必要があります。国立社会保障・人口問題研究所の調査をもとにした報道によれば、50〜60年前にはごく一般的だったお見合い結婚は、現在では1割にも満たず、結婚した夫婦の9割近くが恋愛結婚に置き換わりました。結婚のきっかけそのものが、丸ごと入れ替わったことになります。
職場結婚も同様に縮小しています。かつては上司や先輩が部下の縁談を取り持つことも珍しくありませんでしたが、ハラスメントへの意識の高まりや雇用の流動化により、こうした"世話焼き"の慣習は職場から急速に姿を消しました。地域のつながりが薄れ、隣近所や親戚を通じた紹介も同じように減っています。結果として、恋愛市場はほぼ完全に個人の力だけに委ねられる場になりました。
自由に相手を選べるようになったこと自体は、望ましい変化のはずです。しかし副作用として、恋愛のチャンスが一部の層に集中し、残りの層には出会いそのものが届きにくくなるという格差が生まれました。「適当な相手にめぐりあわない」という回答の多さは、この構造の裏返しとして読むことができます。
あなたが感じる「結婚できない理由」に近いのは?
「結局は個人の魅力の問題では」という反論への応答
ここまでの話には、当然強い反論があります。自分で書いておきます。「恋愛強者3割の法則というが、それは結局モテるかどうかという個人差の話であって、社会や制度のせいにするのはおかしいのではないか」。昔から美男美女はモテたし、そうでない人は苦労してきた。今さらそれを"格差"と呼ぶほどのことか、という見方です。
この批判にも一理あります。しかし、それでも私たちはこう考えます。容姿や性格、経済力といった個人差の分布そのものは、30年間でそれほど大きく変わっていないはずです。ところが「結婚したい人のうち実際に交際・結婚できる人の割合」だけは、明確に悪化しました。もし原因が個人の資質だけなら、結果はもっと緩やかに変化するはずです。
短期間で大きく変わったのは、個人差の分布ではなく、その分布から結婚が生まれる仕組みの方だと考えるのが自然です。お見合いや職場結婚という「ならし装置」が失われたことで、もともとあった個人差が、そのままダイレクトに結果の差として表面化しやすくなった。個人を責めても、次に同じ立場に置かれる人が結婚できる確率は1ミリも上がりません。
もうひとつ想定される反論があります。「マッチングアプリがあるのだから、出会いの機会はむしろ増えているはずだ」というものです。窓口の数だけを見れば、その通りでしょう。しかし前述のとおり、出会いから交際に進むまでのやり取りには相応の負荷がかかり、"チャンスの数"と"実際に結ばれる確率"は別の問題です。入り口が増えても、その先で選ばれる人が偏っているなら、全体の結果はやはり変わりません。
よくある質問
不本意未婚とは何ですか?
結婚したいという意思があるにもかかわらず、実際には結婚できていない未婚者を指す言葉です。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では「いずれ結婚するつもり」と答えた未婚者が男性81.4%、女性84.3%(2021年公表の第16回調査)にのぼる一方、生涯未婚率は男性28.3%、女性17.8%まで上昇しており、この差が不本意未婚の広がりを示しています。
なぜ結婚したい人が結婚できなくなっているのですか?
出生動向基本調査によれば、25〜34歳で交際相手がいない未婚者は男性で7割前後、女性でも6〜7割にのぼります。「適当な相手にめぐりあわない」ことが独身でいる最大の理由で、経済的な要因に加え、独身研究家の荒川和久氏が指摘するように、自由恋愛市場では出会いのチャンスが一部の層に偏りやすい構造があることも背景にあります。
年収は結婚できるかどうかに関係しますか?
関係します。年収300万円未満の男性は50歳時点の未婚率が50%を超える一方、年収600万円以上では10%以下にとどまるというデータがあります。ただし結婚したい人の割合自体は大きく変わっていないため、経済的要因だけでは実現率の低下をすべて説明することはできません。
まとめ
不本意未婚は、意欲の欠如が生んだ現象ではありません。結婚したい人の割合はいまも8割を超えているのに、出会いの仕組みだけが一部の層に偏った結果、多くの人が「めぐりあえない」まま取り残されています。
「自分に魅力がないからだ」と一人で抱え込む前に、まず疑うべきなのは自分ではなく、出会いの機会そのものが極端に減っている社会の側かもしれません。仕組みの問題だと分かれば、次に取るべき行動も変わってきます。
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