スマホで学力が下がるという説はなぜここまで支持されるのか、PISA最新結果が示す限界

スマホ学力低下説はなぜ広がる、PISA最新データの限界
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

2026年9月8日、日本がPISA(国際学習到達度調査)の主要3分野すべてでOECD加盟国中1位を維持したというニュースが流れました。学力世界トップ級のはずなのに、同じ報道の中で「低得点層が増えている」という言葉が繰り返されています。原因としてまた挙がったのが、スマホとSNSです。この説明は本当に正しいのでしょうか。

「学力世界一」なのに「低下」と言われる理由

時事通信の報道によれば、2025年に実施されたPISAで日本は科学的応用力538点(全参加国・地域で5位)、数学的応用力525点(同5位)、読解力503点(同4位)となり、いずれもOECD加盟38カ国の中では1位でした。数字だけ見れば、日本の学力は世界でも屈指の水準にあります。

ところが同じ調査で、前回よりも点数はすべての分野で下がっており、低得点層の割合も読解力18.6%(前回比+4.8ポイント)、科学的リテラシー11.3%(同+3.3ポイント)、数学的リテラシー16.1%(同+4.1ポイント)と、3分野とも増加しています。文部科学省の担当者は「はっきりしたことは言えない」と留保しつつ、読書量の減少、学習時間の減少、スマートフォン・SNS・ゲームに充てる時間の増加が影響した可能性があるとの見方を示しました。

「1位なのに低下」という見出しは、一見すると矛盾に見えます。しかし実際には平均点を押し上げる上位層平均点を押し下げる下位層が同時に、しかも別々の理由で動いているだけです。上位層は変わらず高い水準を保っている一方、下位層の裾野がじわじわ広がっている。全体の平均だけを見ていると、この「二極化」はほとんど見えてきません。だからこそ、下位層だけを切り出して原因を探る作業に意味が出てきます。そしてその作業の途中で、いちばん名指しされやすいのがスマホでした。

同じPISAでは、日本経済新聞の報道によれば、「物事の仕組みを知ることが好き」に肯定的に答えた日本の生徒は59%で、OECD平均の74%を大きく下回ったという結果も出ています。「科学を学ぶことに興味がある」も55%、「科学の問題を解いている時は楽しい」も49%と、いずれも平均以下でした。点数は高いのに、好奇心や主体性を示す項目では平均を下回る。この組み合わせは、後で述べる「時間の中身」の話と地続きです。

先にお断りします。 文科省の担当者自身が「はっきりしたことは言えない」と述べている通り、スマホやSNSが低得点層増加の原因だと確定した調査結果ではありません。ここではその「可能性がある」という段階の話が、なぜ断定的な「スマホ悪玉論」として広がってしまうのかを考えます。

📌 出典: 時事通信Yahoo!ニュース(毎日新聞)日本経済新聞nippon.comリクルートマネジメントソリューションズ。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

「使うほど下がる」というデータの中身

PISAより先に材料をそろえていたのが、文部科学省の全国学力・学習状況調査です。2024年4月実施分の集計では、SNSや動画視聴の時間が長い子どもほど正答率が低い傾向がはっきり出ていました。中学3年生の数学では、利用時間「4時間以上」のグループと「30分未満」のグループで正答率に18.5ポイントの差があり、小学6年生の算数でも16ポイントの差が確認されています。

  • 小学6年生でSNS・動画を1日4時間以上見る子は11.8%(前回調査比+0.9ポイント)
  • 中学3年生では17.9%(同+2.5ポイント)。約6人に1人にあたる
  • 4時間以上のグループは、30分未満のグループより正答率が明確に低い

本サイトの別の記事で紹介した実験でも、スマホを使っていなくても視界に入っているだけで思考力を使う脳の余力が削られるという結果が出ています。「使っている時間」だけでなく「そこにあること」自体が影響しうるという意味では、この2つのデータは矛盾しません。

ここで注意したいのは、正答率の差が出ている教科です。数字の差がもっとも大きかったのは、中3の数学と小6の算数でした。国語ではなく算数・数学で差が開いているという点は、単純な「スマホで読解力が落ちる」という説明だけでは説明しきれません。むしろ、集中して考え続ける時間そのものが細切れになっていることの影響と見るほうが、データの形に近いと考えられます。

スマホを削っても、削られた時間が眠りや読書に戻らなければ、学力は上がらない。

見落とされている「置き換え仮説」

ここまでのデータで語られていないことが一つあります。1日は24時間しかないという、当たり前すぎて誰も注目しない制約です。スマホに4時間使っている子どもは、その4時間を別の何かに使わなかった子どもでもあります。問題は「スマホを見たこと」ではなく、「その4時間が、以前は何に使われていたか」ではないでしょうか。

文科省の担当者が可能性として挙げた読書量の減少・学習時間の減少は、まさにこの「置き換え」の話です。本サイトの勉強中の音楽についての記事でも見た通り、同じ「1時間机に向かう」という行為でも、何を同時にしているかで読解の成績は大きく変わります。時間の長さだけを問題にすると、この違いが見えなくなります。

「スマホが学力を下げる」という説明が広がりやすいのは、原因が一つに絞れて、対策も分かりやすい(取り上げればいい)からです。しかし置き換え仮説に立つと、対策は一つではなくなります。睡眠時間が削られているなら早く寝かせる。読書時間が削られているなら本を渡す。会話が削られているなら食卓でスマホを置かせる。「何が減ったか」によって、有効な手当ては変わります。

同じ「スマホ4時間」でも、中身はまったく違います。友達とのやり取りに使っている子と、動画を延々と流し見している子、ゲームで達成感を得ている子では、削られているものが違うはずです。やり取り型は会話の時間を、視聴型は睡眠や読書の時間を、それぞれ別の形で置き換えている可能性があります。「スマホを何時間使ったか」という1本の数字にまとめてしまうと、この違いはきれいに消えてしまいます。

「それは相関の言い換えでは」への反論

ここまでの主張には、当然強い反論があります。自分で書いておきます。「置き換え仮説も、結局は観察データにもとづく相関にすぎない。ランダム化比較試験で証明されたわけではないのだから、『スマホ悪玉論は単純化しすぎ』と言えるほどの根拠にはならない」というものです。これは筋が通っています。慶應義塾大学の中室牧子准教授も、スマホと学力の関係について「相関関係」と「因果関係」は別物であり、学力の低い子どもがスマホに向かっている可能性(逆の因果)も否定できないと指摘しています。「仮にスマホを見ていなかったら、その子は本当に勉強していたのか」という反事実を考えなければ、因果は証明できません。

それでも、私たちは置き換え仮説には意味があると考えます。理由は、証明の強さではなく検証のしやすさにあります。「スマホが悪い」という説明は、スマホを取り上げれば終わりで、それ以上検証のしようがありません。一方「何が置き換わったか」という見方は、「使用時間を減らしても、睡眠や読書の時間が増えなければ学力は変わらないはずだ」という、外れうる予測を立てられます。外れうる予測を立てられる説明は、外れたときに修正できます。修正できない説明よりも、そちらの方が実用的です。

実際、家庭でスマホの時間を制限しても成績が思ったほど上がらなかった、という声は珍しくありません。多くの場合、その家庭ではスマホの代わりに別の暇つぶしが入り込んでいるだけで、睡眠や読書の時間は増えていません。これは置き換え仮説からすれば、むしろ予測どおりの結果です。「効かなかった」のではなく、「置き換え先を用意しないまま時間だけ削った」から効かなかったと考えるほうが、次の一手につながります。

子どものスマホ対策、あなたはどちらを重視すべきだと思いますか?

よくある質問

PISA調査で日本は本当に学力世界一なのですか?

2025年に実施され2026年9月に結果が公表されたPISAで、日本は科学的応用力・数学的応用力・読解力の主要3分野すべてでOECD加盟国中1位でした。全参加国・地域の中でも科学5位、数学5位、読解4位と世界トップ水準です。ただし前回調査と比べるといずれの分野も点数は下がっており、低得点層の割合も3分野とも増えています。

スマホの使用時間と学力には因果関係があるのですか?

文部科学省の全国学力・学習状況調査では、SNSや動画視聴の時間が長いグループほど正答率が低い傾向が確認されていますが、これは相関関係であり因果関係を証明したものではありません。慶應義塾大学の中室牧子准教授は、学力の低い子どもがスマホに向かっている可能性(逆の因果)も否定できないと指摘しています。

子どものスマホ利用で親が実際に見るべきポイントは何ですか?

使用時間そのものより、スマホによって何の時間が失われているかに注目することが重要です。睡眠時間・読書時間・家族との会話時間が削られていないかを確認し、削られているならそこを補うことが、時間制限だけを課すより効果的だと考えられます。

まとめ

日本は学力調査で世界トップ水準を維持しながら、低得点層という「置いていかれる子」を増やしています。この二つは矛盾しているようで、実は同じ社会の中で同時に起きていることです。

「スマホが悪い」という説明は分かりやすく、正しく見えます。しかしそのデータの多くは相関にとどまり、何の時間が奪われたのかという一番大事な問いには答えていません。時間を削ること自体を目的にすると、そこを見失います。

もしあなたの家庭でスマホ時間が気になっているなら、まず時間を測る前に、その時間が以前は何に使われていたかを思い出してみてください。答えの手がかりは、たぶんそちらにあります。「何時間使ったか」より「その時間、何をしなくなったか」を家族で言葉にしてみるだけでも、次に打つ手はかなり具体的になります。

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