団地が人気の理由は「安いから」ではない。選ばれているのは、出費の波が来ないことだ

【考察】団地が人気の理由、安いからではなかった
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

空室だらけだったはずの団地が、いま埋まっています。若い夫婦が越してきて、戸建てを売って移ってくる家族までいる。多くの記事はこれを「昭和レトロ」と「家賃が安いから」で説明します。しかし、その二つでは説明がつかない事実がいくつもあります。団地の家賃は、実はそこまで劇的に安くありません。それでも人が集まる理由は、月々の金額ではなく、お金の出ていき方の形にあると考えます。

団地に人が戻ってきている

2026年8月、関西テレビが「令和の団地暮らし」として、入居率がV字回復した団地を取り上げました。Yahoo!ニュースにも配信されたこの報道では、若い世代の入居が増えていること、住民同士の交流が魅力として語られていること、そして戸建てを売って家族5人で越してきた世帯までいることが紹介されています。

これは一部の団地だけの話ではありません。日本経済新聞は、政府が掲げる「子育て世帯にUR賃貸10万戸」構想を扱った記事のなかで、UR側の担当者の言葉として「23区はほぼ満室。最近は千葉や埼玉も埋まってきた」と報じています。数十年にわたって「古い」「余っている」と言われ続けた住宅が、いま都市部では奪い合いになっている。

UR都市機構が管理する賃貸住宅は、2026年4月時点で全国に約71万戸とされています。無印良品と組んだ「MUJI×UR」のリノベーション住戸のように、内装を現代的に作り替えた住戸が人気を集めていることも、複数のメディアが報じているとおりです。

📌 出典: 関西テレビ/Yahoo!ニュース日本経済新聞UR賃貸住宅国土交通省 住宅市場動向調査。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

「安いから」では説明できないこと

団地人気の説明としていちばんよく使われるのが「物価高だから安い家に移っている」です。もっともらしく聞こえます。しかし、この説明には穴が二つあります。

ひとつめ。いま団地が埋まっているのは、いちばん家賃が高い場所です。もし「安さを求めて移動している」のなら、真っ先に埋まるのは家賃の安い郊外の団地のはずです。ところが実際に満室になっているのは東京23区で、そこから千葉・埼玉へ波及している。これは安い順ではなく、需要が多い順に埋まっています。安さの話だとすると順番が逆です。

ふたつめ。団地の家賃は、言われるほど劇的に安くありません。立地と広さが同じなら、民間の賃貸と月々の家賃が大きく変わらない団地はいくらでもあります。「団地=激安」というイメージは、築古で駅から遠い物件の印象が強すぎるだけです。同じ条件で並べたとき、月額で明確に何万円も差がつくケースはそう多くありません。

では、何が違うのか。答えは、家計から金が出ていくタイミングと形です。

家計を壊すのは、月々の数千円ではない。ある月だけ突然出ていく十数万円のほうだ。

民間の賃貸に住むと、支出は「毎月の家賃」と「ときどき来るまとまった支払い」の二階建てになります。入居時には敷金・礼金・仲介手数料・保証会社の初回保証料・火災保険料が一度に飛びます。そして2年後、更新料が来ます。国土交通省の令和4年度住宅市場動向調査報告書では、更新手数料がある賃貸住宅は45.8%、金額は「家賃1カ月分」が77.2%と報告されています。首都圏に限れば、更新料を設定している物件の割合はさらに高いと不動産各社が説明しています。

つまり多くの人にとって、賃貸のコストは平らな線ではなく、2年ごとに山が立つ波です。そしてこの波は、家賃が上がるほど高くなります。

正体は、2年ごとの波が来ないこと

UR賃貸住宅の説明を読むと、そこに書かれているのは家賃の安さではありません。書かれているのは「無い」ものの一覧です。

  • 礼金が不要(戻ってこないお金が最初から発生しない)
  • 仲介手数料が不要(貸主が直接契約するため)
  • 更新料が不要(2年ごとの山がそもそも立たない)
  • 保証人・保証会社が不要(初回保証料も年間更新料もかからない)
  • 入居時に必要なのは敷金(家賃2カ月分)と日割り家賃・共益費だけ

これを「初期費用が安い」とまとめてしまうと、話の半分を落とします。本質は金額ではなく、支出の形が波ではなく直線になることです。住み続けるかぎり、月々の家賃以外は原則として何も起きない。来年も再来年も、同じ日に同じ額だけが引き落とされる。

この「何も起きない」に価値が生まれた理由は、はっきりしています。家賃そのものが上がり続けているからです。長谷工総合研究所は、東京23区の賃料が2025年第4四半期に前年同期比プラス5.3%となり、13四半期連続で過去最高を更新したと分析しています。旭化成ホームズがまとめた2026年春の東京の家賃動向でも、ファミリー向きの平均家賃が16万7450円で前年同月比13.5%上昇、シングル向きが7万3179円で9.0%上昇と、更新が続いています。日本経済新聞も、23区の家族向けマンション家賃が初めて25万円台に乗ったと報じました。

家賃が1割上がるということは、2年後の更新料も1割上がるということです。月々の負担増だけを見て「なんとかなる」と判断した人が、更新月に想定外の請求を受ける。しかも更新のタイミングは選べません。この「選べない支出」が、いま家計にとって最も扱いにくいものになっています。

戸建てを売って団地に移る人の行動も、同じ論理で読めます。持ち家のコストは住宅ローンだけではありません。固定資産税、火災保険、10年から15年ごとの外壁と屋根、10年前後で寿命が来る給湯器、シロアリ、庭木。どれも金額が読めず、来る時期を自分では決められません。ローンを完済した高齢世帯にとって、住居費はゼロにはならず、「いつ来るか分からない数十万円」の待機状態に変わります。

団地へ移るという選択は、床面積を減らす行為ではなく、予測できない出費の当事者から降りる行為です。修繕を判断する責任も、業者を選ぶ負担も、費用の見積もりを読む労力も、まとめて手放せる。年金生活で最も価値があるのは、金額の小ささではなく、毎月の数字が来年も同じだと分かっていることです。

そう考えると、団地の「住民同士の交流」が魅力として語られる理由も、単なる懐かしさではありません。隣に誰が住んでいるか分かるというのは、近隣トラブルという不確実性が低いということでもあります。家賃、更新、修繕、隣人。令和の団地人気を貫いているのは、レトロでも安さでもなく、読める暮らしという一語だと考えます。

「結局は安さだろう」という反論に答える

ここまでの見方には、当然、強い反論があります。いちばん効くものを自分で書いておきます。

「更新料も初期費用も、要するにお金の話だ。安さを言い換えただけではないか」。これはもっともです。礼金がゼロなのも更新料がゼロなのも、支払総額が減るという意味では「安い」です。わざわざ「支出の形」などと言い換える必要はない——。

それでも区別する意味はある、と考えます。理由は、この二つで打つべき手がまったく変わるからです。「安さを求めている」が正しいなら、対策は家賃補助になります。しかし「支出の波が読めないことがつらい」が正しいなら、効くのは補助金ではなく、更新料の廃止や、初期費用の分割・平準化です。同じ総額でも、平らにするだけで住み替えの負担は下がる。実際にURがやっているのは値引きではなく、この平準化のほうです。

もうひとつの反論。「23区のURはほぼ満室で、入りたくても入れない。人気の説明になっていない」。これも事実です。日本経済新聞が伝えたとおり、都心では空きがなく、抽選や先着で埋まります。ただし、これは論を否定するというより裏づけていると見ます。入れないほど選ばれているという状態こそが、人気の実体だからです。家族向けの70平方メートル以上の賃貸は東京23区の1割未満とも報じられており、広くて更新料のない住戸は、そもそも数が足りていません。

三つめ。「団地はエレベーターのない5階建てが多く、高齢者には向かない」。これも正しい指摘で、実際に上階の空室が埋まりにくいという構造的な弱点があります。ここは「団地なら誰でも幸せになる」という話ではありません。ただ、それでも戸建てを手放して移る世帯が現れているという事実は、階段の負担より、出費が読めない負担のほうが重いと判断した人がいることを示しています。どちらを取るかは条件次第ですが、後者を選ぶ人が増えているのが、いまの数字です。

補足: 本稿の「支出の波」という見方は、当編集部の解釈です。UR側や研究機関が「更新料がないから人気だ」と分析していると報じられたわけではありません。確認できているのは、団地の入居率が回復していること、都市部のURがほぼ満室であること、UR賃貸に礼金・仲介手数料・更新料・保証人が不要であること、そして民間の家賃と更新料が上がり続けていることまでです。これらをどうつなぐかが解釈にあたります。

あなたが家を選ぶとき、より重いのはどちらですか?

よくある質問

団地の家賃は民間の賃貸より安いのですか?

物件によります。月々の家賃だけを比べると、立地や広さによっては民間の賃貸と大きく変わらない団地もあります。差が出るのは初期費用と更新時です。UR賃貸住宅は礼金・仲介手数料・更新料が不要で、保証人も保証会社も要らないと公式に案内されており、入居時に必要なのは敷金(家賃2カ月分)と日割り家賃・共益費だけとされています。

賃貸の更新料は、どれくらいの家に付いているのですか?

国土交通省の令和4年度住宅市場動向調査報告書では、更新手数料がある賃貸住宅は45.8%、不要な賃貸住宅は39.2%と報告されています。金額は「家賃1カ月分」が77.2%と最も多く、首都圏では更新料を設定している物件の割合がさらに高いと不動産各社は説明しています。普通借家契約の契約期間は2年が一般的です。

いま団地に申し込めば入れますか?

エリアによっては簡単ではありません。日本経済新聞は、UR側の担当者の話として東京23区はほぼ満室で、最近は千葉や埼玉も埋まってきていると報じています。一方で募集を続けている団地は全国に多くあり、UR都市機構が管理する賃貸住宅は2026年4月時点で全国に約71万戸あるとされています。空室状況は団地ごとに大きく異なります。

まとめ

団地の入居率が回復した理由を「昭和レトロが流行っているから」で片づけると、いちばん大事な部分を落とします。人が動いているのは懐かしさではなく、家計の設計の問題です。

家賃が13四半期連続で過去最高を更新するような局面では、負担は月額だけでなく、2年ごとの更新料という形でも増えていきます。上がる家賃に、上がる更新料が乗る。この二重の増え方は、給与が同じ人にとっては読めない出費そのものです。礼金なし・仲介手数料なし・更新料なし・保証会社なしという構造は、値引きではなく、その波を消す装置として効いています。

戸建てから団地へ移る高齢世帯も、若い夫婦がURを選ぶのも、根は同じです。求めているのは安い家ではなく、来年いくらかかるかを今日決められる家です。

もし今あなたが賃貸に住んでいるなら、契約書の更新月と更新料の欄を一度見てみてください。次に家賃が上がったとき、その欄の金額も一緒に上がります。住み替えを考える理由は、たいていそこに先に書かれています。

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