真夏のインフルエンザ早期流行、なぜ3年連続で記録を更新するのか

インフルエンザ早期流行、「記録」が3年連続で更新中
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

厚生労働省は2026年8月28日、全国的なインフルエンザの流行入りを発表した。まだ9月にもなっていない時期の発表は、今の届け出制度が始まった1999年以降、パンデミックが起きた2009年に次いで2番目に早い。しかも、こうした「記録的な早さ」や「記録的な規模」が更新されるのは、これで3年連続になる。「今年は残暑が厳しかったから」「学校が始まったから」だけで片づけていいのか、この記事では一歩踏み込んで考える。

9月前に流行入り、まず何が起きているかを確認する

厚生労働省は2026年8月28日、全国的にインフルエンザが流行期に入ったと発表した。対象となった第34週(8月17〜23日)の定点あたり報告数は1.11で、流行入りの目安とされる1.00を超えた。前年(2025年)の流行入りは9月下旬だったので、1か月以上前倒しになっている計算になる。

この時期の流行入りは、感染症法にもとづく現在の届け出体制が始まった1999年以降、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)パンデミックに次いで2番目に早い。2009年は世界的に新しいウイルス株が広がった特殊な年であり、それを除けば実質「統計開始以来もっとも早いクラス」の流行入りと言っていい。

翌週(第35週、8月24〜30日)には報告数がさらに1.76へと急増し、前週比でおよそ1.6倍になった。都道府県別では沖縄が8.50でもっとも多く、次いで岩手4.33、新潟3.58と続き、全国39都道府県で前週より報告数が増えている。

そもそもインフルエンザが例年11〜12月ごろから流行し始めるのは、気温と湿度が下がって飛沫が乾燥した空気中を漂いやすくなることに加え、寒さで換気を控える屋内での接触時間が増えるためだと説明されてきた。この「冬型」の前提に立てば、残暑が続く8月末の流行入りは、気候条件だけでは説明が苦しい。

この投稿は気象情報会社が厚労省発表をまとめたものだが、注目すべきは伸び方だ。1週間で1.6倍という増加速度は、例年11〜12月にかけてゆるやかに立ち上がる通常の流行曲線とは明らかに違う。2学期が始まった直後というタイミングも重なり、「今年は早い」という体感は数字の上でも裏付けられている。

統計上の数字だけでなく、現場でも学級閉鎖の報告がすでに出始めている。例年なら「インフルエンザ」という言葉すら意識しない9月上旬に、こうした投稿が目に入ること自体が、今シーズンの異例さを物語っている。

「免疫負債」という説明、どこまで正しいか

早期流行の説明として、ここ数年もっともよく語られるのが「免疫負債」という考え方だ。2021年にフランスの研究者らが提唱した仮説で、感染対策によって日常的にウイルスへ触れる機会が減ると、集団としての免疫の積み上げが止まり、行動制限がゆるんだあとに感染症がまとめて急増しやすくなる、という理屈だ。

この説明自体は的外れではない。コロナ禍のマスク着用や外出自粛で、とくに小さな子どもたちがインフルエンザに触れる機会が数年にわたって失われたことは、複数の研究機関が指摘してきた。ただし、正直に書いておくべきことがある。「免疫負債」はまだ学術的に確定した理論ではない。「免疫窃盗」という異なる呼び方を好む研究者もおり、コロナ後遺症への注意喚起の比喩として使うべきだという慎重論も根強い。呼び方や解釈をめぐる議論自体が、まだ決着していないのが実情だ。

そして、この仮説には説明しきれない部分がある。免疫負債が「コロナ禍3年間で溜まった1回分の負債」なのだとしたら、どこかの1シーズンでまとめて感染が広がれば、その負債は解消されるはずだ。ところが実際には、2023年、2024年、2025年と、形を変えながら毎年のように「記録」が出続けている。この繰り返しこそが、次に見るべきポイントだ。

「1年のズレ」ではなく「3年連続の記録更新」という事実

ここからは、他の解説記事があまり触れていない視点を整理する。今シーズンの早さだけを切り取ると「今年は特別」という単発の話に見える。しかし過去3年分を並べると、様子が違って見えてくる。

  • 2023年:前年から流行がそのまま途切れずに続く「通年感染」という、季節性そのものが崩れた状態になった
  • 2024/25年:ピーク時(2024年第52週)の定点あたり報告数が64.39に達し、1999年の届け出体制開始以降で最大の記録となった
  • 2025/26年(今回):流行入りの発表が1999年以降で2番目に早く、2009年の新型インフルエンザ流行に匹敵する早さになった

免疫負債は、1年で返し終える借金ではない。まだ元金が残ったまま、利子がつき続けている状態かもしれない。

単年の免疫負債が原因なら、どこかの年でまとめて感染が広がった時点で、翌年以降は元の周期に戻っていくのが自然だ。実際、2024/25年は観測史上最大規模の流行が起きている。それだけの人数が感染したのなら、その世代の免疫はむしろ更新されたはずで、2025/26年はもっと落ち着いていてもおかしくない。それでも再び「2番目の早さ」という記録が出ているということは、負債を抱えているのが同じ集団だけではない可能性を考える必要がある。

思い当たる構造的な要因は3つある。第一に、2020〜2023年に生まれた子どもたちは、集団としてインフルエンザにほとんど触れないまま保育園・幼稚園から小学校へ上がる年齢に差しかかりつつある。第二に、訪日外国人が過去最多水準で推移しており、日本の夏にあたる時期に冬を迎える南半球からのウイルスの持ち込み経路が、年間を通じてほぼ途切れなくなった。第三に、修学旅行や合宿といった「大人数・宿泊」を伴う学校行事が、コロナ前の水準にほぼ完全復帰している。

これらはどれも、今年だけの特殊事情ではなく、来年も再来年も形を変えて残り続ける構造的な要因だ。だとすれば、「免疫負債」はコロナ禍という一時的な出来事の後始末ではなく、毎年少しずつ積み増されていく利子のようなものとして捉えたほうが、3年連続の記録更新をうまく説明できる。

言い換えれば、私たちは「コロナで止まっていた時計が、いつか元に戻る」という前提そのものを疑ったほうがいい段階に来ているのかもしれない。時計は止まっていたのではなく、針の進み方自体が変わってしまった可能性がある。

「気候と学校要因が重なっただけ」という見方への反論

ここまでの主張には、当然強い反論がある。自分で書いておく。「結局、今年は記録的な残暑でエアコンをつけっぱなしの密閉空間が続いた。そこに2学期の開始が重なり、子どもの接触機会が一気に増えただけではないか。来年にはまた11〜12月開始の"普通"の年に戻るはずだ」という見方だ。実際、猛暑と換気不足がその年の流行曲線の立ち上がりに影響することは、専門家も否定していない。この批判は筋が通っている。

補足: 気候・学校再開・免疫負債・ウイルス側の変異など、複数の要因が同時に絡み合うテーマであり、どの要因が何割寄与しているかを断定できる段階の研究はまだない。ここで書いたのは、公表されている統計をもとにした当編集部の仮説的な整理であることを明記しておく。

それでも、私たちはこう考える。単発の猛暑や学校要因だけが原因なら、「暑かった年は早く、そうでない年は例年通り」というばらつきが出るはずだ。ところが2023年の通年化、2024年のピーク最大、2025年の開始最速と、3年間ずっと「平常運転に戻らない」方向でしか記録が動いていない。たまたま3年連続で悪条件が重なったと考えるより、基準となる"平常"そのものが、この数年でどこかへ動いてしまったと考えるほうが、少なくとも自然だ。

今年のインフルエンザ、もう対策を始めていますか?

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出典: 日テレNEWS(YouTube)

よくある質問

インフルエンザの「早期流行」とはどういう意味ですか?

通常は11月から12月にかけて全国的な流行が始まりますが、厚生労働省の統計で定点あたり報告数が基準値の1.00を超える時期が、9月に入る前後まで前倒しになっている状態を指します。2026年は8月28日に流行入りが発表され、1999年の感染症法施行以降では、新型インフルエンザが広がった2009年に次いで2番目に早い記録になりました。

「免疫負債」とは何ですか?

2021年に提唱された仮説で、感染対策などで日常的にウイルスにさらされる機会が減ると、集団としての免疫の積み上げが止まり、行動制限が緩んだあとに感染症が急増しやすくなるという考え方です。「免疫窃盗」という呼び方をする研究者もおり、学術的な呼称や解釈は現在も議論が続いています。

今年のインフルエンザはいつまで続きますか?

2026年9月時点では、今後の規模や収束時期を断定できる材料はありません。過去2シーズンが記録的な規模やタイミングになっていることから油断はできませんが、正確な予測は厚生労働省や専門機関の続報を確認する必要があります。

まとめ

今年のインフルエンザが早いのは、猛暑や学校再開だけでは説明しきれない。2023年の通年化、2024年の観測史上最大、2025年の史上2番目の早さと、3年連続で「平常」から外れ続けている。免疫負債という言葉を使うにしても、それは一度で返し終わる借金ではなく、まだ膨らみ続けている途中なのかもしれない。

次の冬に流行が落ち着くかどうか、今年のうちに答えが出る話ではない。それでも「今年も早いな」で済ませず、手洗いや換気といった基本を早めに始めておいて損はないはずだ。

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📌 出典: 厚生労働省 インフルエンザに関する報道発表資料(2025/2026シーズン)日本経済新聞国立健康危機管理研究機構 IASR(2024/25シーズン特集)NewsCafe。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

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