お菓子の転売はなぜ合法なのか。十万石まんじゅう騒動でわかった、法律とプラットフォームの穴

お菓子の転売はなぜ合法なのか、十万石まんじゅう騒動と法律の穴
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

埼玉銘菓「十万石まんじゅう」が、通販サイトで正規価格より1000円以上高く転売されていることが分かりました。メーカーの十万石ふくさやは「不正転売にご注意ください」と繰り返し呼びかけていますが、実はこの転売、警察が動くような違法行為ではありません。なぜ、これほど堂々とまかり通るのか。答えは、規制の網の外側にありました。

埼玉銘菓の高額転売、何が起きたか

埼玉県行田市の老舗「十万石ふくさや」が、通常10個入り1900円で販売している「十万石まんじゅう」が、Yahoo!ショッピングやAmazonなどの通販サイトで2930円という高値で転売されていることを公表しました。テレビ朝日系のニュースが転売業者に直撃取材したところ、業者側は通常便での発送を認めています。

この饅頭はあんこと皮を使った生菓子で、賞味期限はわずか4〜6日。メーカーは25〜28度での温度管理を基本としており、保管状態が分からないまま暑さの残る時期に通常便で届けば、品質が保てるかは分かりません。十万石ふくさやは公式サイトで「安心して商品をお買い求めいただくためにも、公式販売サイトのご利用をお願いします」と注意を呼びかけています。

Yahoo!ニュースが速報として取り上げたことで、この日のうちに「十万石まんじゅう」がXのトレンドに乗りました。多くのユーザーが驚いていたのは、転売の値上がり幅そのものより「埼玉に行けば普通に買えるのに」という素朴な疑問です。地元では駅前やサービスエリアで日常的に売られている商品が、なぜわざわざ高値で転売されるのか。この違和感こそが、本稿の出発点です。

注目したいのは、メーカー公式アカウントによるこの注意喚起が、今回の報道より1週間近く前に投稿されている点です。つまり十万石ふくさやは、テレビが取材に来る前から独自に転売を把握し、警告を出し続けていました。それでも止まらなかった。この「メーカーが気づいていて、警告も出しているのに、止められない」という構図こそが、単なる悪質業者の話では片づかないことを示しています。

お菓子の転売は、実は「合法」という事実

多くの人が誤解していますが、転売という行為そのものは、日本の法律で禁止されていません。自分が正規に購入した商品を、いくらで誰に売るかは、原則として所有者の自由です。問題になるのは「何を」「どう」転売するかによって、個別の法律に触れる場合だけです。

中古品の売買を規制する古物営業法は、代表的な例です。この法律は「古物」を扱う業者に許可を義務づけていますが、対象品目はブランド品や電化製品、書籍など特定のカテゴリーに限られます。食品や酒類は、古物営業法が定める品目のどれにも該当しません。つまり十万石まんじゅうをいくら転売しても、古物商許可の対象外です。

もう一つの規制候補である食品衛生法も、今回のケースには刺さりません。仕入れた菓子箱を開封せずそのまま転売する分には、営業許可も届出も不要とされています。許可が必要になるのは、小分けにして再包装したり、複数商品を混ぜてオリジナルの詰め合わせを作ったりする場合です。未開封のまま高値で右から左に流すだけなら、この法律も素通りしてしまいます。

この投稿のように「転売ヤーから買うな」という善意の注意喚起が広がるのは自然な反応です。ただし、ここで見過ごされがちなのは、注意を呼びかける以上の対抗手段が、実際にはほとんど無いという点です。詐欺や偽ブランド品の販売なら警察も動けますが、正規品を高値で売ること自体は、消費者が納得して買っている限り取り締まる根拠がありません。

合法なのに止まらない、本当の理由

ここまでの話だけなら「法律の穴」で終わります。しかし、なぜこの穴が他の商品ではなく、地方銘菓で繰り返し開くのかを考えると、もう一段深い構造が見えてきます。

転売業者の多くは、あらかじめ在庫を抱えていません。注文が入ってから公式サイトや現地の店舗で買い付け、購入者へ発送する「無在庫転売」という手法です。在庫リスクも保管コストもゼロで始められるため、参入障壁がほぼありません。そしてこの手法が成立する条件が、地方銘菓には偏ってそろっています。

転売が問題なのは、儲けているからではない。品質の責任だけが宙に浮くからだ。

多くの老舗菓子店は、ブランドの希少性や地元との関係を守るため、あえてAmazonや楽天のような巨大モールに出店せず、自社サイトと現地店舗だけで売っています。ところが消費者の側は、Amazonで検索して見つからなければ「無いなら仕方ない」とは思いません。そこに「Amazonで買えます」と出品する転売業者が現れれば、多少高くても買ってしまう人が一定数います。正規ルートが薄いところに、需要だけが取り残されている状態です。

もう一つの理由は、通販モール側の経済合理性です。AmazonやYahoo!ショッピングは、出品者が誰であっても、売れれば手数料が入ります。偽ブランド品や規約違反の出品でない限り、モール側には積極的に排除する強い動機がありません。メーカーが「不正転売です」と通報しても、モールの審査を経て削除されるまでにはタイムラグがあり、その間に次の出品者が現れます。メーカーは、終わりのないもぐら叩きを一人で続けることになります

そして十万石まんじゅうのようなケースが特に危ういのは、これが賞味期限4〜6日の生菓子だという一点です。スニーカーやゲーム機の転売なら、品質が劣化する心配はほとんどありません。しかし生菓子は違います。温度管理を保証できない通常便で運ばれた時点で、安全性の保証はメーカーの手を離れます。それでも店頭に並ぶ「十万石まんじゅう」というブランド名だけは、そのまま消費者に届いてしまいます。

「転売のおかげで届く」という反論への応答

ここまでの主張には、当然強い反論があります。自分で書いておきます。

「転売がなければ、埼玉に行けない人はそもそも十万石まんじゅうを食べられない。転売は、遠方の人に地方の名物を届ける役割を果たしているのではないか」。実際、公式のオンライン販売が一時的に品薄や休止になっていた期間もあり、この主張には一理あります。転売そのものを「悪」と決めつけるのは、単純化しすぎだという指摘は正しいと考えます。

それでも、私たちはこう考えます。問題は「遠方に届けること」ではなく、「品質への責任を、誰も引き受けないまま届けること」です。メーカー自身が運営する公式通販なら、温度管理された配送方法を選び、賞味期限内に届く前提で発送します。転売業者が同じ商品を通常便で送るのは、コストを削って利益を確保するためであり、そこに品質管理という発想はそもそも組み込まれていません。

つまり「地方の名物を全国に届ける」という機能自体は否定しません。否定したいのは、その機能を果たすはずの部分だけを都合よく抜き取り、リスクは消費者に丸投げする仕組みです。届けるなら、届け方にも責任を持つ。それができないなら、少なくとも「これは正規のルートではありません」と分かる形で売るべきだ、というのが私たちの立場です。

補足: 十万石ふくさやが被害額や転売業者数を公表した事実は確認できていません。本稿の数字(1900円→2930円)は、報道および同社の告知内容にもとづきます。今回の転売行為が個別に犯罪に該当するかどうかは、詐欺や商標権侵害など別の要素が絡まない限り、現時点の法制度では判断が難しいのが実情です。

正規価格より高い「転売品」の食品、あなたは買いますか?

よくある質問

お菓子の転売はなぜ合法なのですか?

転売という行為自体は、財産権にもとづく自由な売買として法律上禁止されていません。中古品の売買を規制する古物営業法は食品を対象品目に含んでおらず、未開封のまま横流しする場合は食品衛生法上の許可も原則不要なため、十万石まんじゅうのような食品の転売は現行法の網に掛からないのが実情です。

なぜ十万石まんじゅうの転売が問題視されているのですか?

十万石まんじゅうは賞味期限が4〜6日の生菓子で、25〜28度での温度管理が前提とされています。転売業者が通常便で発送すると保管状態が不明なまま消費者の手に届き、食中毒などの健康被害につながりかねません。メーカーの十万石ふくさやは公式サイトでの購入を呼びかけ、繰り返し注意喚起を出しています。

通販サイトはなぜ不正転売を止められないのですか?

Amazonやヤフーショッピングは、出品者が誰であっても手数料収入を得られる仕組みのため、規約違反でない限り積極的に排除する動機が薄いのが実情です。多くの地方銘菓メーカーは自社サイトや地元店舗だけで販売しており、この「正規ルートの薄さ」が、注文を受けてから仕入れて発送する無在庫転売の参入余地を生んでいます。

まとめ

十万石まんじゅうの転売は、法律だけを見れば「グレー」ですらなく「合法」です。ここが多くの人の直感とずれる部分であり、だからこそ「けしからん」という声だけが空回りします。

本当に効くのは、感情的な批判ではなく、正規ルートを太くすることだと私たちは考えます。公式通販の在庫を切らさない、モールへの通報プロセスを簡略化する、賞味期限が短い商品だと分かるよう明記させる。地味な対策の積み重ねだけが、次の「十万石まんじゅう」を減らします。

今度あなたが検索して見つけた「地方の名物」が、公式サイトより高く、発送方法も書かれていなかったら、一度立ち止まってみてください。それは、遠くの誰かがあなたの代わりに引き受けたはずのリスクを、そのまま渡されている瞬間かもしれません。

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