ガリウム高騰3年で9倍、備蓄制度があるのに脱中国が進まない本当の理由

レアメタル高騰はなぜ止まらない、脱中国できない理由
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

ガリウムという金属を知らなくても、3年で価格が9倍になったと聞けば驚くはずです。中国が輸出に許可制を敷いたのは2023年8月。それから3年たったいまも、価格は下がるどころか上がり続けています。「脱中国」は各国が繰り返し掲げてきた目標ですが、なぜ3年たっても実現しないのでしょうか。答えは、意志の弱さでも対策の遅れでもありません。

3年で9倍、いま何が起きているのか

中国政府がガリウムとゲルマニウムの輸出に許可制を導入したのは2023年8月です。日本経済新聞によれば、それから3年がたった2026年7月末時点で、欧米市場のガリウム指標価格は1キログラム3050ドルまで上昇しました。規制前の2023年7月末と比べて9倍という水準です。

高騰しているのはガリウムだけではありません。世界生産の8割を中国が占めるタングステンも、2026年に入ってから年初比で3倍まで値上がりしたと報じられています。製造業を支える工具の原料として使われるため、影響は自動車から精密機械まで広がっています。

ガリウムは、シリコンより電力変換効率に優れる化合物半導体(窒化ガリウム)の原料です。EVの急速充電器、5G基地局、防衛用レーダーなど、電力を効率よく扱う必要がある機器に使われています。地味な金属に見えて、実は電力インフラの根っこに関わっている素材です。

国際エネルギー機関(IEA)は2026年7月の報告書「Global Critical Minerals Outlook 2026」で、中国の輸出管理措置が全面的に実施された場合、中国域外の年間生産額のうち6.5兆ドル相当が影響を受けうると警告しています。ガリウムとゲルマニウムは、その中でも供給リスクが特に高い鉱物として名指しされました。

さらに厄介なのは、価格が「国内向け」と「輸出向け」で分断されてしまったことです。欧州市場のガリウム価格は中国国内価格のおよそ5倍、ゲルマニウムもおよそ3倍の水準まで開いています。同じ資源なのに、輸出許可というゲートを一つ通るだけで値段が数倍に跳ね上がる。これが、日本を含む中国域外の需要家が構造的に割高な価格を強いられている現状です。

他国がガリウムを作れない理由は"安値の罠"

ここで多くの人が抱く疑問は「なぜ中国以外の国では作れないのか」でしょう。技術的なハードルが高いからだと思われがちですが、実態は違います。中国は低純度ガリウムの一次生産で世界の98%を占めていますが、これは技術の独占ではなく、経済判断が積み重なった結果です。

ガリウムはアルミの精錬過程で得られる副産物で、単独の鉱山採掘では成立しにくい金属です。2000年代末、中国が生産能力を拡大して安値で供給を続けたため、中国以外の生産者の多くは採算が取れず、自らガリウム生産から撤退しました。安く売るしかない状況でコストを回収するのがやっとだったためです。

中国が意地悪をしたのではない。他国は、利益の出ない金属から自分の意志で先に撤退していた。

つまり「脱中国」ができないのは、技術で後れを取ったからではなく、過去に下した経済判断の結果です。いま新たに精錬設備を立ち上げようとしても、投資回収には数年単位の時間がかかります。しかもその間に中国が再び価格を下げれば、新規参入者はまた採算割れに陥りかねません。この非対称性こそが、脱中国を「言うは易く行うは難し」にしている正体です。

実際に動き出している例もあります。2026年7月、カナダのTeck Resources社は、カナダ成長基金や連邦天然資源省の重要鉱物アクセレレーターと組み、ブリティッシュコロンビア州にある製錬所でゲルマニウムを含む生産能力を拡大するための戦略的投資契約を結びました。裏を返せば、こうした国と企業が組んだ大型投資が必要になるほど、民間だけでは採算に乗りにくい金属だということです。動き始めてから実際に供給が増えるまでには、なお数年を要します。

備蓄制度があるのに、なぜ足りないのか

実は日本は、同じような危機をすでに一度経験しています。2010年、中国はレアアースの輸出枠を前年比で4割削減し、対日輸出は事実上停止しました。当時、日本のレアアース輸入は中国に80〜90%依存しており、価格は1年で10倍にまで跳ね上がりました。政府間の交渉を経て、輸出は徐々に正常化しています。

この経験を踏まえ、日本にはJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)による国家備蓄制度があります。1983年度に発足したこの制度は、34鉱種55元素を対象に、国内消費の60日分(一部は30日分)を国の倉庫に確保しておく仕組みです。

  • JOGMEC国家備蓄:1983年度発足、34鉱種55元素が対象
  • 備蓄目標:国内標準消費量の60日分(一部30日分)
  • 2010年の教訓を受けて整備された経済安全保障の仕組み

15年以上前に同じ経験をしているのに、なぜガリウムやゲルマニウムでまた同じ高騰が起きているのでしょうか。理由は、備蓄制度が守っているのは「量」であって「価格」ではないからです。備蓄は輸入が完全に止まった非常時の緊急避難であり、通常の商取引が続いたまま国際価格だけが吊り上がっていく今回のような状況には、そもそも効果が及びにくい仕組みです。

もう一つの柱である「調達先の多角化」も、進んではいますが遅いのが実情です。JOGMECと双日は2010年の危機を受けて、豪州のレアアース大手ライナス社に資本参加しました。ライナス社の精錬拠点はマレーシアにあり、中国を経由しないサプライチェーンとして機能しています。こうした取り組みの結果、日本のレアアース調達における対中依存度は2010年の89.8%から、2024年には62.9%まで低下しました。ベトナムやタイからの輸入拡大も寄与しています。

数字だけ見れば前進です。しかし裏を返せば、15年かけても依存度は90%から60%台にしか下がっていないということでもあります。「中国とそれ以外で5割ずつ調達する」という現実的な目標の達成時期は、早くても2030年代初頭になる見通しだと指摘されています。国のお金と時間を注ぎ込んでも、鉱山を掘り当て、精錬所を建て、供給網を組み替えるという作業には、それだけの年月がかかるということです。

「これは政治的な武器化ではないか」という反論

ここまでの話に対して、当然強い反論があります。自分で書いておきます。

「これは経済合理性の結果などではなく、中国が意図的に仕掛けた政治的な武器化ではないか」という指摘です。実際、ガリウムとゲルマニウムの対米輸出禁止は、米国の対中輸出規制強化への対抗措置として発動された側面があると報じられています。規制のタイミングが米中対立の局面と重なっていることを踏まえれば、これを単なる市場の話として片づけるのは楽観的すぎる、という批判は筋が通っています。

それでも、私たちはこう考えます。政治的な引き金と、経済的な脆弱性は、両方とも同時に真実でありえます。規制が政治的な意図で発動されたのは事実でしょう。しかし、その規制がこれほど効いてしまうのは、代わりに供給できる生産者が世界にほとんど残っていなかったからです。もし他国に採算の合う代替生産者が複数存在していたら、輸出規制だけで9倍もの価格高騰は起きなかったはずです。

政治的な引き金を引かれても揺るがない体制を作るには、結局のところ経済的な脆弱性そのものを埋めるしかありません。規制の意図を批判するだけでは、価格は1円も下がらないのです。

もう一つ想定される反論は、「価格が上がっているだけで、供給自体は止まっていないのだから深刻ではない」というものです。これも一理あります。実際、対日輸出が一部再開されたという報道もあり、完全な供給停止には至っていません。しかし、価格が構造的に高止まりしたまま何年も続けば、それに依存する製品の側でコスト増を吸収しきれなくなる企業が出てきます。止まっていないから安全、ではなく、止まっていなくても高いままなら結局は誰かが負担するという点を見落とすべきではありません。

補足: 中国当局は輸出規制の意図について単一の公式説明をしているわけではなく、対米対抗措置・資源戦略・環境規制強化など複数の見方が並立しています。特定の意図を断定する材料は確認できておらず、本稿でも断定はしていません。

レアメタルがこの3年で高騰していたこと、知っていましたか?

よくある質問

レアメタルとレアアースの違いは何ですか?

経済産業省は31鉱種47元素をレアメタルに指定しており、レアアース(希土類17元素)はそのうち1鉱種として数えられます。ガリウムはレアアースではなく、レアメタルの一種です。

ガリウムの価格が上がると、スマートフォンの価格も上がりますか?

1台あたりの使用量はごくわずかなので、この一つの要因だけでスマホ本体の価格が跳ね上がるとは考えにくいです。ただしEVの急速充電器や通信基地局向けの電力半導体など、コストを吸収しにくい分野では影響が出やすく、そこからインフラ整備コストという形で間接的に跳ね返る可能性があります。

日本の備蓄制度で高騰は止められませんか?

JOGMECの国家備蓄は輸入が完全に止まった際の緊急避難を目的にした「量」の確保が目的で、国際市場での価格そのものを抑える機能は持っていません。備蓄目標も国内消費の60日分程度が中心で、数年単位で続く価格高騰への対策にはなりにくいのが実情です。

まとめ

ガリウムが3年で9倍になったのは、誰かの油断や対策の遅れが原因ではありません。中国以外の生産者が、採算の合わない金属から自らの意志で撤退していった、何十年分もの経済判断が積み上がった結果です。

日本は2010年のレアアース危機で、すでに同じ構図を経験しています。ライナス社への出資などを通じて対中依存度を89.8%から62.9%まで下げてきましたが、それでも「5割ずつ」という目標には2030年代初頭までかかる見通しです。国家備蓄制度も、輸入が止まる非常時への保険であって、じわじわ進む価格高騰そのものを止める道具ではありませんでした。15年かけてやっと数十ポイント動く程度のスピード感だということを、まず受け入れる必要があります。

ゲーム機3社が半導体高騰で相次いで値上げしたのも、食品の値上げがナフサ高騰から止まらなかったのも、根っこにあるのは同じ構造です。原材料の値札は、ある日突然貼り替わるのではなく、遠い国で何十年もかけて積み上がった経済判断の請求書として、少し遅れて私たちのもとに届きます。

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