AIポスターが「気持ち悪い」と言われる本当の理由

AIポスターが気持ち悪い本当の理由、火種は表示
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

2026年9月、鹿児島の「いぶすき菜の花マラソン」のポスターが「生成AIっぽい」とX上で指摘され、大会事務局が使用を認めて訂正するという騒動が起きました。今月だけの話ではありません。8月には消防庁の「救急の日」ポスター、味の素の公式Xの投稿画像でも、AI活用をめぐって似たような波紋が広がっています。多くの解説記事は「AI画像はなぜ気持ち悪いのか」を絵柄の観点から説明します。しかし今回の3件を並べて見ると、共通する火種は絵の出来ではないことが見えてきます。

1カ月で3件、AIポスター騒動が相次いだ

まず時系列を整理します。8月14日、味の素の公式Xアカウントが投稿したレシピ写真で、AIによる明るさ補正の過程で商品パッケージの「HONDASHI」の文字が「MONDASHI」に変形していたことが指摘されました。同社は8月16日に謝罪し、「確認が不足しており大変申し訳ありません」とコメントしています。

続いて8月下旬、消防庁と救急振興財団が配布する「救急の日」の啓発ポスターが生成AIで作られているとして、X上で「気持ち悪い」という投稿が拡散し、賛否を呼ぶ議論に発展しました。そして9月7日、いぶすき菜の花マラソン(第44回、2027年1月10日開催)のポスターについて「肝心の菜の花が菜の花に見えない」との指摘が相次ぎ、大会事務局は9月8日、生成AIを活用していたことを認め、当初「イラストレーターが制作した」としていた説明を「グラフィックデザイナーが生成AIを活用しながら仕上げた」に訂正しました。

先にお断りします。 本稿はデザイナー個人や生成AIという技術そのものを断罪する記事ではありません。3つの事例に共通する「なぜ繰り返し同じ形の騒動が起きるのか」という構造を扱います。

📌 出典: ITmedia NEWS(菜の花マラソン)J-CASTニュース(味の素)Togetter(救急の日ポスター)J-CASTニュース(デザイン業倒産)。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

タネアカシの見方

この投稿がすべての発端です。注目したいのは「菜の花が菜の花に見えない」という具体的な指摘であって、「AIだから嫌だ」という感情論から入っていない点です。投稿者は多数の作品を発表している絵描きで、公式の「イラストレーターが制作」という説明を前提に、その専門性への疑問として発信しています。この時点ではまだ、事務局の説明を信じたうえでの指摘だったことが重要です。

タネアカシの見方

味の素のケースは、菜の花マラソンとは対照的な対応です。AI活用の事実を隠さず、何にどう使ったかを具体的に説明したうえで謝罪しています。批判は集まりましたが、騒動は数日で収束しました。同じ「AIで失敗した」という結果でも、説明の速さと具体性で炎上の長さが大きく変わることを、この2つの事例の差が示しています。

「不気味の谷」だけでは説明がつかない

AI画像への違和感を説明する際によく引用されるのが「不気味の谷」という現象です。テキサス大学オースティン校の研究によれば、AI画像は本物に極めて近づいている一方で、手の形や光の反射、文字の崩れといった細部にわずかな不自然さが残り、それが違和感につながるとされています。似た画風・色調の画像が大量に出回ることへの食傷感や、生成AIが既存の作品を学習に使うことへの反発も、嫌悪感を強める要因として指摘されています。

この説明は的外れではありません。ただし、それだけでは説明できない現象が同じ8月に起きています。消防庁と救急振興財団が配布した「救急の日」ポスターです。

タネアカシの見方

「キショキショAIポスター」という表現に象徴される、強い拒否反応です。パースの狂いや人物の大きさの不自然さなど、具体的な違和感が指摘されています。ここまでは典型的な「不気味の谷」の反応に見えます。

タネアカシの見方

ところが、まったく同じポスターを見て「高度な使い方だと思う」と評価する声も同時に広がりました。Togetterのまとめでも「視点次第で感じ方が違う」という結論になっています。同じ絵を見て、片方は生理的な拒否感を覚え、もう片方は違和感すら覚えない。絵柄の出来という一元的な尺度だけでは、この分裂を説明できません。

AIポスターが叩かれているのは、AIを使ったからではない。使ったと言わなかったからだ。

味の素のケースと救急の日ポスターのケースの違いを思い出してください。味の素は最初からAI活用を認めて謝罪し、数日で収束しました。救急の日ポスターは意見が割れ、決定的な炎上には至りませんでした。そして菜の花マラソンだけが、指摘から訂正までに1日以上を要し、しかも「イラストレーター制作」という当初の説明が誤りだったことが後から明らかになりました。3件の中でいちばん尾を引いたのは、絵柄への違和感がいちばん強かった事例ではなく、説明が食い違っていた事例だったのです。

火種の正体は「表示と実態のズレ」

菜の花マラソンの公式サイトは当初、ポスターを「イラストレーターが制作した」ものと説明していました。指摘を受けて事務局が公表した訂正は、「イベントポスターなどを多数手掛けているデザイナーに制作を依頼し、生成AIを活用しながら、デザイナーが構成・デザイン・画像の加工や修正などを行い、最終的なビジュアルとして仕上げた」というものでした。

タネアカシの見方

「イラストレーター」から「グラフィックデザイナー」への言い換えは、単なる呼称の違いではありません。公表していた制作プロセスと、実際の制作プロセスが違っていたことを認めた瞬間です。読者やSNSの反応は、菜の花の描写そのものよりも、この「言っていたことと違った」という点に反応しています。これは絵の品質評価ではなく、情報の信頼性の問題です。

なぜこの種の食い違いが繰り返されるのでしょうか。背景には、制作現場の予算事情があります。東京商工リサーチの調査によれば、2026年上半期(1〜6月)のデザイン業の倒産件数は40件で、前年同期比166.6%増。従業員5人未満の小・零細企業が全体の9割を占めています。主な要因として挙げられているのが、生成AIの普及で発注側が「内製化」できるようになり、飲食店メニューやポスターといった小規模案件の需要そのものが失われていることです。

  • 地方のマラソン大会やイベントのポスターは、大企業の広告と違い制作予算が限られる
  • 発注→代理店・デザイナー→(場合によっては再委託)という多重の構造では、AIをどこまで使ったかという情報が発注者まで正確に伝わりにくい
  • 3件とも謝罪文言に「確認不足」という言葉が共通して使われている。これは技術の失敗ではなく、チェック工程の設計不足を意味する

つまり、AIを使うこと自体が問題の中心ではありません。予算と発注構造の現実によって現場がAIに頼らざるを得なくなっている一方、それを公表する仕組みが制作フローに組み込まれていないことが、後から「実は違った」という形で発覚し、火に油を注いでいます。菜の花マラソンの事務局が「変更する予定はありません」と当初コメントしたのも、事後対応として設計されていなかったことの表れと見ることができます。

この構造は、当サイトで扱ってきた他のAI画像騒動とも共通しています。「救急の日」AIポスターに賛否が割れた際の記事でも、絵柄への評価が割れる一方で公式からの説明は限定的でした。味の素のAI画像騒動では逆に、迅速で具体的な説明が炎上の早期収束につながっています。

「AIを使うこと自体が手抜き」という反論

ここまでの主張には、当然強い反論があります。自分で書いておきます。

「公金や公式の看板を背負った発信物に、AIで済ませること自体が手抜きではないか。予算がないなら予算をつけるべきで、AIに逃げるのは筋違いだ」。この批判は正当です。実際、救急の日ポスターへの批判には「毎年同じ調子で送りつけるな」という、AI云々以前の姿勢そのものへの不満も含まれていました。

それでも私たちは、AI活用そのものを一律に禁止する主張には無理があると考えます。理由は単純です。デザイン業の倒産が前年比166.6%増という現実がある以上、小規模な発注案件において人手だけで賄う体制はすでに崩れつつあります。「AIを使うな」は、現場の実情を見ない理想論になりかねません。

本気で減らしたいなら、打つべき手は「AI禁止」ではなく、「AIを使ったかどうかを、後から指摘されるより先に言う」というルールを制作フローに組み込むことです。

  • 発注時点で「AI活用の有無」を成果物の仕様として明記する項目を作る
  • 納品物に「生成AIを一部工程で使用」といった一文を添えるだけで、事後の「イラストレーター制作」との食い違いは起きなくなる
  • 多重下請けの場合でも、最終発注者への報告義務として明記しておく

これらはいずれも追加のコストがほとんどかからない対策です。事後に隠していたことが発覚するより、先に一言添えるほうが、はるかに安く済みます。

補足: 救急の日ポスターの件は、Togetterのまとめでも「視点次第で感じ方が違う」と評されており、明確な炎上・謝罪には至っていません。3件を同列の「炎上事件」として断定しているわけではなく、反応の強さにはグラデーションがあることをお断りしておきます。

公的な発信物でAIを使う場合、あなたはどちらを支持しますか?

よくある質問

AIポスターはなぜ「気持ち悪い」と言われるのですか?

手の形や光の反射、文字の崩れなど細部にわずかな不自然さが残る「不気味の谷」現象が一因とされています。ただし同じAI活用でも意見が真っ二つに割れるケースがあり、絵柄の完成度だけでは説明しきれません。実際には「AIを使ったと知らされていなかった」という驚きが反発を強めている面が大きいと考えられます。

公的機関がAIを使うこと自体は問題ですか?

AI活用そのものを一律に禁止する必要はないと考えます。デザイン業の倒産が急増するなど制作コストの現実は厳しく、AIによる効率化には合理性があります。問題視すべきは活用の是非ではなく、活用したことを発注段階・公表段階でどう開示するかという設計です。

AI使用を隠すとなぜ炎上しやすくなるのですか?

「イラストレーターが制作した」など事実と異なる説明を先に出してしまうと、AI利用そのものより「訂正させられた」という後出しの構図が信頼を損ないます。いぶすき菜の花マラソンの事例でも、指摘を受けてから説明が訂正されたことが批判を長引かせました。

まとめ

AIポスターが叩かれる理由を「絵が気持ち悪いから」で片づけると、次に起きる同種の騒動にも同じ説明を繰り返すことになります。しかし今回の3件を並べると、絵柄への評価が割れた事例(救急の日)は炎上せず、説明が食い違っていた事例(菜の花マラソン)がいちばん長引いたという事実が残ります。

火種はAIの完成度ではなく、発注から公表までのどこかで「使ったことを言わなかった」判断にあります。そしてその判断の裏には、デザイン業の倒産が前年比166.6%増という、現場の予算逼迫があります。AIを使うなと言うのは簡単ですが、それだけでは同じ騒動がまた起きるだけです。

次に似た騒動を目にしたとき、注目すべきは絵のタッチではありません。公式の説明が、指摘を受ける前と後で変わっていないかどうかです。そこが変わっていれば、問題はAIではなく、開示の設計にあります。

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