きのこたけのこ戦争、値上げのたびに即停戦してしまう本当の理由

きのこたけのこ戦争、値上げで即停戦した理由
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

明治が「きのこの山」「たけのこの里」など11品目の値上げを発表した直後、SNSには「今日だけはきのこ派もたけのこ派もない」という趣旨の投稿が並びました。40年以上いがみ合ってきたはずの二大派閥が、値上げのニュース一つであっさり手を組む。この現象を「ただのノリ」で片づける前に、ある心理学の古典実験を知っておくと、見え方がまるで変わります。

値上げ発表で起きた「まさかの停戦」

2026年8月18日、明治は「きのこの山」「たけのこの里」を含むチョコレート・スナック11品目を、11月1日出荷分から約3〜8%値上げすると発表しました。「辻利抹茶ラテ」などの飲料3品目は10月から先行して値上げされます。同じ日、ロッテもガムなど18品目の値上げを発表しており、FNNプライムオンラインやNHKニュースは、原材料価格や包装資材、エネルギーコストの高止まりを理由として報じています。

この発表を受けて起きたのが、ネット上での「停戦」でした。ふだんは「きのこ派」「たけのこ派」に分かれてどちらが美味しいかを言い合っている人たちが、値上げのニュースの前では「今日は敵じゃない」「一緒に値上げに怒ろう」という趣旨の投稿で足並みをそろえたのです。まとめサイトやSNSでは、この現象を面白がる声が広がりました。

📌 出典: FNNプライムオンライン(Yahoo!ニュース)時事ドットコム。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

40年以上、対立が終わらなかった理由

「きのこの山」と「たけのこの里」をめぐる論争は、1980年ごろから消費者の間で自然に始まったとされています。当時からすでに、どちらが好きかで意見が分かれる菓子として知られていました。

この対立を明治は放置せず、むしろ商品として磨き込みました。「きのこの山」に対して「たけのこの里」を投入する際、あえてサクサクとした食感しっとりとした食感という、真逆の方向性を持たせたのです。味の違いだけでなく食感まで対極にしたことで、消費者は「どちらが好きか」を選ばざるを得なくなり、これが自然な派閥形成を後押ししました。

2001年ごろには、明治自身が「きのこ・たけのこ総選挙」のような公式投票企画を実施し、対立をコンテンツ化しました。もともとSNSや掲示板上で日常的に交わされていた議論を、明治が公式に取り上げて便乗した形です。この企画は、当時伸び悩んでいた「きのこの山」の売上回復にもつながったとされ、以後も節目ごとに同様の企画が繰り返されています。

  • 1980年ごろ:消費者間で自然発生的に「どちらが好きか」の議論が始まる
  • 商品設計の段階で、食感を対極にして派閥化を促進
  • 2001年ごろ:明治が「総選挙」形式の企画で対立を公式コンテンツ化
  • 以後、周年企画などで定期的に対立が再燃・再生産される

つまりこの対立は、放っておいたら勝手に続いていたものではありません。企業が意図的に育て、定期的に手入れをしてきた「設計された対立」です。だからこそ、40年以上経っても風化せず、むしろ世代を超えて引き継がれています。

対立が一瞬で消える、本当の仕組み

ここで思い出したいのが、1961年にアメリカ・オクラホマ州のロバーズケーブ州立公園で、心理学者ムザファー・シェリフが行った実験です。11〜12歳の少年22人を無作為に二つのグループに分けてキャンプをさせ、綱引きなどで競争させたところ、両グループの間にはわずか数日で強い敵意が生まれました。相手グループの旗を燃やす、小屋を荒らすといった行動まで見られたといいます。

重要なのはここからです。研究チームは、両グループに「協力しなければ解決できない共通の課題」を用意しました。キャンプ場の水道管が壊れて水が出なくなる、食料を運ぶトラックが動かなくなる、といった具合です。この課題に一緒に取り組むたびに、少年たちの間の敵意は薄れ、最終的には打ち解けていったと報告されています。心理学ではこれを「上位目標(superordinate goals)」と呼びます。

対立は本気の敵対ではなく、実は同じ財布を持つ仲間だと確認し合う儀式だった。

きのこたけのこ戦争に、この構造をそのまま当てはめてみます。「どちらが美味しいか」という対立は、日常的には楽しく続けられますが、実害はありません。ところが値上げは、きのこ派にもたけのこ派にも等しく、そして具体的に降りかかる問題です。次に買うときの支払額が増える、という一点において、両派は初めて「協力しなければ損をする側」として同じ立場に置かれます。

ロバーズケーブ実験の少年たちが「壊れた水道管」という共通の困りごとの前で手を取り合ったように、きのこ派とたけのこ派も「値上げ」という共通の困りごとの前では、対立している場合ではなくなる。これは偶然の空気の変化ではなく、人間集団が繰り返し見せてきた、ごく普遍的な反応だと考えられます。

「ただのネタ・ノリでは」という反論への応答

ここまでの話に対しては、当然、強い反論があります。自分で書いておきます。

「大げさに深読みしすぎではないか。値上げのニュースに便乗して面白がっているだけで、そこに心理学の理論を持ち出す必要はない」。もっともな指摘です。実際、この「停戦」ムードは数日で消え、値上げが実施される11月にはまた通常の派閥論争に戻っているはずです。だとすれば、これは深い心理現象ではなく、単なる一過性のジョークだと見るほうが自然にも思えます。

それでも私たちは、「ただのジョークだから軽い」とは考えません。むしろ逆です。人がジョークとして瞬時に反応できるということは、その反応パターンが本人も意識しないほど根深く体に染みついている証拠です。誰も「値上げを機に停戦しよう」と真面目に呼びかけたわけではありません。それなのに、示し合わせたように同じ方向へ反応が揃った。ここに、対立が最初から「本気の敵対」ではなく「安全に楽しめる対立ごっこ」として設計されていたことが透けて見えます。

本気の対立であれば、共通の困りごとが現れたくらいで簡単には解けません。数日で「停戦」と「再開」を繰り返せるということ自体が、この対立の正体を証明しています。きのこ派とたけのこ派は、最初から同じ明治の顧客という一つのチームであり、対立はそのことを忘れないための、定期的な儀式のようなものだったのです。

補足: 「2001年ごろ」とした明治の公式企画の実施年や回数については、報道・企業インタビュー記事によって表現に幅があります。本稿では複数の情報源で共通して確認できた大枠(1980年代の自然発生、2001年前後の公式企画化)のみを採用し、断定できない細部は「〜とされている」と明記しています。ロバーズケーブ実験についても、対立解消の主要因は「共通の敵」ではなく「協力しないと解決できない共通の課題(上位目標)」であったことを踏まえ、値上げについても「敵」ではなく「共通の困りごと」として位置づけています。

あなたはきのこ派?たけのこ派?

よくある質問

きのこたけのこ戦争とは何ですか?

明治の「きのこの山」と「たけのこの里」、どちらが美味しいかをめぐる消費者間の対立です。1980年ごろから自然発生的に議論が続き、明治自身も2001年ごろから「総選挙」形式の公式キャンペーンで対立をコンテンツ化してきました。

なぜ値上げ発表で「停戦」ムードになったのですか?

2026年8月、明治がきのこの山・たけのこの里を含む11品目を11月から約3〜8%値上げすると発表し、ロッテも同時期に値上げを発表しました。値上げは「きのこ派」「たけのこ派」どちらにも等しく降りかかる問題のため、対立より先に「同じ財布から出るお金が痛む」という共通の実感が優先された結果です。

この対立は今後も続くのですか?

続くと考えられます。値上げのような共通の外部要因が去れば、対立は数日から数週間でまた元に戻る性質のものだからです。明治にとっても、対立自体が長年のブランド価値になっているため、意図的に解消される可能性は低いといえます。

まとめ

きのこたけのこ戦争が値上げのたびに「停戦」するのは、対立が薄っぺらいからではなく、最初から本気の敵対として設計されていなかったからです。40年以上かけて育てられた対立ごっこの下には、値上げという共通の困りごとが現れた瞬間に顔を出す、同じ財布を共有する仲間としての一体感がずっと隠れていました。次に値上げのニュースで「停戦」を見かけたら、そのくすっと笑える一体感の裏に、少年キャンプの実験と同じ仕組みが動いていることを思い出してみてください。

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