うつ病で心療内科に通う若者が急増、高齢者の健康はなぜ逆に改善しているのか

うつ病で通院する若者が増加、高齢者は真逆の理由
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

「若者の心が壊れている」——そう見出しを付けたくなるデータが、2026年8月22日にTBS CROSS DIG with Bloombergの記事として報じられました。厚生労働省の2025年国民生活基礎調査によれば、20〜44歳の男性と30代の女性で、通院理由としてもっとも多い症状は「うつ病」でした。一方、高齢層の健康状態はむしろ改善傾向にあります。世代でこれほど数字が逆を向くのはなぜか。答えは、心の弱さの話ではありません。

若者だけが「悪化」して見える数字の中身

TBS CROSS DIG with Bloombergが2026年8月22日に報じたのは、厚生労働省の2025年国民生活基礎調査から見える、世代間で対照的な健康動向でした。20〜44歳の男性では、通院している人が挙げた自覚症状のうち「うつ病等心の病気」が15〜17%でトップに立っています。30代の女性でも、同じ「うつ病等心の病気」が16〜19%で最多でした。

さらに、うつ病を主な症状として通院している人のうち、51.9%が「健康上の問題で日常生活に影響がある」と回答しています。通院しているだけでなく、実生活にも支障を感じている人が半数を超えるという数字です。20〜44歳は、うつ病を主訴とする通院患者のうち男性の31%、女性の32%を占めており、若年層に特徴的な傾向だといえます。

ここで見落とされがちなのが、若年層では「入院した割合」や「自覚症状がある割合」自体はむしろ低下傾向にあるという点です。下がっているのは体調の自己申告で、上がっているのは通院だけ。この食い違いこそが、この記事のいちばんの手がかりになります。

📌 出典: TBS CROSS DIG with Bloomberg(Yahoo!ニュース)、 厚生労働省「2025年国民生活基礎調査」。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

男女で数字の出方が違う点も見逃せません。男性は20〜44歳という幅広い年代でトップに立ち、女性は30代という、より狭い年代で突出しています。子育てや仕事との両立、キャリアの転換点が重なりやすい30代女性に、不調が集中して表面化しているとも読めます。年代の幅が男女で異なるという細部にも、単純な「若者一括り」では説明しきれない背景がありそうです。

通院が増えたのは、心が壊れたからではない

自覚症状は減っているのに、通院だけが増えている。この矛盾を素直に読めば、「若者の心がここ数年で急激に弱った」という説明はうまく当てはまりません。むしろ自然なのは、不調を訴える人の数自体は大きく変わっていないが、その不調が医療の網に引っかかる確率が上がったという説明です。

具体的な変化がいくつかあります。まず、オンライン診療の急拡大です。日本経済新聞の報道によれば、オンライン診療の利用は1年で倍増し、かぜと並んで精神疾患の受診が多く、若者の利用がとくに目立って増えているといいます。通勤・通学の合間に予約を入れ、スマートフォンで診察を受けられる環境は、10年前には存在しませんでした。

もうひとつが、ストレスチェック制度です。2015年に従業員50人以上の事業場で義務化されたこの制度は、令和10年(2028年)5月までに従業員数を問わずすべての事業場へ拡大される方向で法改正が進んでいます。20〜44歳の男性、30代の女性は、まさにこの制度の対象になりやすい働き盛りの世代と重なります。

通院が増えたのは、心が壊れた人が増えたからではない。壊れかけた心を見つける手段が増えたからだ。

これらはいずれも、「気づく」「相談できる」入り口が増えたことを意味します。入り口が増えれば、そこを通る人の数も増えます。統計上は「うつ病の通院者が急増」と映りますが、実態としては見えていなかった不調が、初めて数字に表れるようになったという側面が大きいと、当編集部は見ています。

もうひとつ、数字には出にくい変化もあります。心の不調を口にすること自体への抵抗感の薄れです。SNS上で「メンタル不調」「通院してる」と率直に語ることが珍しくなくなった世代と、体調不良を人前で語ること自体をためらってきた世代とでは、同じ不調があっても申告のされ方が変わります。これは統計として取り出しにくい要因ですが、通院という行動に表れる形で、間接的に数字を押し上げている可能性があります。

高齢層はなぜ「改善」しているのか

一方の高齢層は、対照的に健康動向が改善しています。ここにも、心の強さの差では説明できない事情があります。

  • 通院という行為そのものに、すでに慣れている世代である
  • 働く世代を対象にしたストレスチェックなど「発見の網」の対象から外れる
  • 健康寿命を延ばす国の施策が、長く高齢層の生活習慣病対策に重点を置いてきた

第一に、高齢層は高血圧や糖尿病など生活習慣病の定期通院が日常に組み込まれており、心の不調があっても「かかりつけ医のついでに相談する」というハードルの低い経路を持っています。若い世代の多くは、そもそも定期的に医療機関へ足を運ぶ習慣自体がありません。

第二に、高齢層の多くは定年退職によって、職場のストレスチェックのような「不調を発見する仕組み」の対象から外れます。改善して見える背景に、把握する網の目そのものが粗くなっている可能性は、無視できないと当編集部は考えます。

第三に、健康寿命を延ばす国の施策は、長年にわたり高齢層の身体機能や生活習慣病対策に重点を置いて積み上げられてきました。データに表れる「改善」は、その蓄積の結果でもあります。

若年層(20〜44歳)高齢層
通院の習慣薄い(不調があっても医療機関に慣れていない)厚い(生活習慣病の定期通院が日常)
発見の網ストレスチェック・オンライン診療の対象になりやすい退職後は対象から外れやすい
データ上の動き通院者は増加、自覚症状は低下健康指標は改善傾向

あなたは、心療内科・精神科への通院に抵抗がありますか?

「それは楽観論だ」という反論に答える

ここまでの整理に対しては、当然強い反論があります。いちばん強いものを、自分で書いておきます。

「それは楽観論だ。受診行動の変化で片づけるのは、実際に若者を追い詰めている経済的な不安定さ、雇用の非正規化、SNSでの絶え間ない比較といった要因から目をそらすことになる」。この批判は正当です。実際、非正規雇用の広がりや物価上昇、将来不安といった構造的な圧力は、この10年で消えるどころか強まっています。受診行動の変化だけで説明を終わらせるのは危険です。

それでも、当編集部はこう考えます。「受診行動が変化した」という説明と、「若者を取り巻く環境が厳しくなった」という説明は、対立するものではなく両立します。むしろ両方が同時に起きているからこそ、通院者数という数字がこれほどはっきり動いたと見るほうが自然です。

大事なのは、この数字をどちらか一方の物語だけで読まないことです。「若者の心が弱くなった」という結論に飛びつけば、対策は精神論で終わってしまいます。逆に「単に見つかりやすくなっただけ」と片づければ、実際の生活の重さを見落とします。両方が動いている前提に立って初めて、入り口をさらに増やすことと、若者を追い詰める圧力そのものを減らすこと、その両方が必要だという結論にたどり着けます。

職場でいえば、ストレスチェックを「義務だから仕方なくやる書類仕事」で終わらせず、その先の相談窓口や産業医面談を実際に使いやすくすることが問われます。数字だけを整備して、その先の受け皿が薄いままでは、通院者数が増えても状況は変わりません。

補足: 本稿は特定の医療行為や自己診断を勧めるものではありません。心身の不調を感じる場合は、医療機関(精神科・心療内科)や職場の産業医、自治体の相談窓口へご相談ください。

よくある質問

なぜ若者のうつ病通院が増えているのですか?

厚生労働省の2025年国民生活基礎調査によれば、20〜44歳男性と30代女性で「うつ病等心の病気」が通院理由の最多症状になっています。ただし若年層では自覚症状がある割合自体は低下傾向にあり、通院者数だけが増えている点から、オンライン診療の拡大やストレスチェック制度の普及によって、これまで表に出にくかった不調が医療につながりやすくなったことも大きな要因と考えられます。

高齢者の健康が改善しているというのはどういう意味ですか?

同じ調査で、高齢層は若年層とは対照的な健康動向を示しています。高齢層はすでに定期通院の習慣があり、生活習慣病対策など長年の政策の蓄積もあって、健康上の指標が改善方向に動いていると見られます。一方で、退職後はストレスチェックなど不調を発見する仕組みの対象から外れるため、把握されにくくなっている可能性も否定できません。

通院が増えることは悪いことなのですか?

必ずしも悪いことではありません。これまで見過ごされてきた不調が医療につながるようになったという点では、前向きな変化とも言えます。大切なのは、通院者数の増加だけを見て「若者が弱くなった」と結論づけず、雇用や経済など実際の生活の圧力にも同時に目を向けることです。

まとめ

「若者のうつ病が急増している」という見出しは、半分正しく、半分足りません。正しいのは、通院という形で不調が可視化される機会が明らかに増えたことです。足りないのは、その裏にある「見つかりやすくなった」という仕組みの変化への説明です。

数字だけを見て世代を比べるのではなく、なぜその数字が動いたのかを一段掘り下げる。そこまでして初めて、次に打つべき対策——入り口をさらに増やすことなのか、若者を追い詰める圧力を減らすことなのか——が見えてきます。

あなたの職場や家庭に、まだ誰にも相談できていない不調を抱えた若い世代はいませんか。まず必要なのは、根性論ではなく、相談先を一つ示すことです。

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