秋サケの不漁はなぜ止まらない、放流100年でも消せない構造的な理由

秋サケ不漁の理由、放流100年でも消えない訳
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

2026年も秋サケが記録的な不漁になる見通しだと報じられました。「海水温の上昇のせいだ」という説明で、多くの人はいったん納得します。しかしそれだけなら、なぜ日本は130年以上も放流を続けてきたのに、これほど急にブレーキが利かなくなったのでしょうか。答えは海の中だけでなく、放流という仕組みそのものの内側にありました。

来遊予測46.9%減、2025年からさらに半減

北海道立総合研究機構(道総研)は、2026年秋に北海道へ戻るサケの数を364万4700尾と予測したと発表しました。これは前年実績比で46.9%減にあたります。2025年はすでに1976年以来49年ぶりに1000万尾を割り込んだ「記録的不漁」の年でした。その年からさらに半減するという予測が、今回のニュースの中身です。

日本経済新聞や北海道新聞などの報道によれば、この落ち込みは秋の味覚であるイクラの値段にも直結します。漁業者からは「衝撃的」という声が上がっており、鮮魚店の間でも「魚離れ」を心配する声が出ています。漁の解禁は例年8月下旬で、この記事を書いている時点ではまだ本格的な水揚げは始まっていません。

📌 出典: 水産新聞、 報道各社(北海道新聞・日本経済新聞・FNNプライムオンライン)の記事。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

海水温だけでは説明できないこと

今回の不漁について、報道でもっとも多く語られている原因は海洋環境の変化です。稚魚が放流された2022〜2023年ごろ、黒潮の大蛇行によって栄養豊富な寒流「親潮」の勢いが弱まりました。親潮が弱いとプランクトンが減り、稚魚の生き残りと成長に響きます。さらに近年の海水温上昇そのものが、冷たい海を好むサケを日本近海から遠ざけ、より北のカムチャツカ方面へ回遊させてしまうことも指摘されています。

ここまでは、ニュースを読めば分かる説明です。しかし、この説明だけでは「なぜここまで急激に、しかも毎年のように悪化するのか」という問いには答えられません。海水温はここ数年で急に上がったわけではなく、じわじわと進んできた変化だからです。

海が変わったから減ったのではない。海の変化を吸収できない仕組みのまま、100年以上やってきたから減った。

日本の秋サケ漁は、天然の自然産卵にほとんど頼っていません。人工孵化と放流によって資源を維持する仕組みが、1888年に北海道千歳川に作られた官営ふ化場以来、130年以上続いてきました。放流されたサケの卵から育った稚魚が数年後に戻ってくる回帰率は、当初は1%程度でしたが、飼育や給餌の技術改良によって現在は4〜5%まで上がっています。つまり日本の秋サケは、ほぼ全量が「人が育てて放した魚」だということです。

獲れないから殖やせない、殖やせないから獲れない

ここに、今回の不漁がただの一過性の異常気象では終わらない理由があります。ふ化場の運営には当然お金がかかりますが、その財源の多くは漁業者からの負担金で成り立っています。漁獲量が減れば漁業者の収入が減り、負担金も減ります。負担金が減れば、ふ化場の施設維持や人員確保に回せるお金が足りなくなります。

  • ふ化場の施設維持費は年々目減りし、大規模な改修が長期間見送られている
  • 技術を引き継ぐ人材の確保が難しくなっている
  • 不漁が続くほど、放流の質と量そのものが維持しにくくなる

日本経済新聞は、このままでは放流事業そのものの存続が危ぶまれると報じています。つまり構図はこうです。不漁になる → 漁業者の収入が減る → 放流の原資が減る → 放流の質が落ちる → 数年後の来遊数がさらに減る。海水温という「外からのショック」を1回受けただけで、この循環が逆回転を始めてしまう。それが、100年続いた仕組みの弱点です。

補足: 今回の364万4700尾という数字はあくまで来遊「予測」であり、実際の漁獲量は解禁後の水揚げ状況で変わります。また、ふ化場の資金難の程度は地域や施設によって差があり、すべてのふ化場が同じ深刻さにあるわけではありません。断定できない部分は「〜とみられる」「〜と報じられている」と書き分けています。

似たような「価格や収入が急落すると、翌年以降の供給がさらに細る」という構図は、水産物に限った話ではありません。当サイトではコメ価格暴落で農家悲鳴、消費者との溝深まる理由でも、生産現場の収入減が次の年の供給力そのものを削っていく様子を扱っています。生産コストが上がり続ける背景については食品値上げが止まらない理由、正体はナフサだったもあわせてお読みください。

「放流をやめればいい」への反論

ここまで読むと、「そんなに脆い仕組みなら、いっそ放流をやめて自然に任せればいいのではないか」という考えが浮かびます。もっとも強い形でこの反論を書いておきます。

「人工孵化に頼り切った資源管理そのものが、そもそも失敗だったのではないか。海外の研究では、放流された魚が野生個体の繁殖率を下げるという指摘もある。自然の回復力に任せたほうが、長期的には健全な資源に戻るはずだ」。実際、アイルランドの研究者らは、人工繁殖させた稚魚の放流が野生サケの繁殖率を低下させる恐れがあると発表しており、この批判には根拠があります。

それでも私たちは、今すぐ放流をやめるべきだとは考えません。理由は単純です。日本の秋サケ資源は、すでに自然産卵だけで維持できる規模をはるかに超えて縮小してしまっているからです。130年かけて「放流に頼る資源」に作り替えてしまった以上、放流を急にやめれば、自然回復が追いつく前に資源そのものが消えるリスクのほうが大きいと考えます。

本気で見直すべきなのは、「放流をやめるかどうか」という二択ではありません。不漁の年ほど資金が減り、資金が減るほど放流の質が落ちるという、ショックを増幅させる財源構造のほうです。豊漁の年に積み立てて不漁の年に補う仕組みや、漁業者の負担金だけに頼らない安定財源の確保など、海洋環境が今後どう変化しても放流の質を落とさずに済む備えが必要だという議論が、水産庁の検討会でも進められています。

秋サケの放流事業に、漁業者の負担金以外の安定財源(税金など)を投じるべきだと思いますか?

よくある質問

秋サケの不漁はなぜ起きているのですか?

直接の原因は、稚魚が放流された2022〜2023年ごろに黒潮大蛇行の影響で親潮が弱まり、餌となるプランクトンが減って稚魚の生き残りと成長が悪化したためとみられています。さらに海水温の上昇で、冷たい水を好むサケが日本近海を避けて北のカムチャツカ方面へ向かってしまう影響も指摘されています。北海道立総合研究機構は2026年の来遊数を前年比46.9%減の364万4700尾と予測しており、49年ぶりに1000万尾を割った2025年からさらに半減する見通しです。

放流事業とは何ですか、なぜ存続の危機なのですか?

稚魚を人工的にふ化させて川や海に放流し、成長して戻ってきたところを漁獲する仕組みで、日本では1888年の官営ふ化場以来130年以上続いています。ふ化場の運営費の多くは漁業者からの負担金で賄われているため、不漁が続くと収入が減り、負担金も減り、施設の維持や人員の確保に回すお金が足りなくなります。日本経済新聞などの報道によれば、この資金不足によって放流事業そのものの存続が危ぶまれる状況になっています。

放流をやめれば不漁は解決しますか?

いいえ、単純にやめれば解決する話ではありません。日本の秋サケ資源は天然の自然再生産だけでは成り立たない水準まで放流に依存しており、放流をやめれば漁獲量はさらに落ち込むと考えられています。一方で、人工孵化に頼り切った資源管理そのものが海洋環境の変化に弱いという指摘も海外の研究にあり、放流を続けながら環境変化に強い資源管理へ仕組みを見直す必要があるという議論が起きています。

まとめ

秋サケの不漁は、海水温という「外の変化」だけで起きているのではありません。不漁になるほど放流の原資が細り、放流の質が落ちるほど翌年以降の不漁が深まるという、内側の仕組みが増幅させています。130年間、この仕組みは大きなショックを一度も受けずに済んできただけとも言えます。

イクラや鮭の値段が上がったとき、「魚が減ったから仕方ない」で終わらせず、なぜ一度減り始めると止まらないのかまで思い出してもらえたら、この記事の役目は果たせたことになります。

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