核のごみ最終処分地、常陸大宮市はなぜ選ばれたのか。無人島だった南鳥島との決定的な違い

【物議】核のごみ常陸大宮市、南鳥島の次は人口3万の町
✒ コラム / 図版:タネアカシ編集部

2026年8月31日、経済産業省は茨城県常陸大宮市に、核のごみ最終処分地選定に向けた文献調査の実施を申し入れました。人口約3万5000人、面積の6割を森林が占める内陸の町です。半年前に同じ経済産業省が選んだのは、住民が一人もいない南鳥島でした。なぜ国は、住民合意という最大の壁をわざわざ避けたはずの場所から、あえて人が暮らす町へと舞台を移したのでしょうか。

いま、常陸大宮市で何が起きているか

2026年8月31日、経済産業省資源エネルギー庁の担当者が茨城県常陸大宮市役所を訪れ、鈴木定幸市長に核のごみ最終処分地選定に向けた「文献調査」の申し入れ書を手渡しました。NHKなどの報道によれば、これが実現すれば全国5例目の文献調査となります。

これまで文献調査が実施されたのは、自治体が自ら応募する「手上げ方式」による北海道・寿都町と神恵内村、佐賀県・玄海町の3件だけでした。2026年3月、国が自ら適地を見定めて申し入れる新しい「申し入れ方式」で東京都小笠原村の南鳥島に打診したのが4件目。常陸大宮市はこの申し入れ方式としては2件目にあたります。

常陸大宮市は、経産省が公表する「科学的特性マップ」で地層処分に好ましい特性を持つとされたエリアの一つで、特に市南東部は輸送面でも好ましいとされています。鈴木市長は取材に対し、「約50年にわたって安価なエネルギーを享受してきた一方で、副産物として出てきたものに知らんぷりをするのは日本人としてはいかがなものか。今の段階では前向きに捉えている」とコメントしました。9月1日開会の定例市議会で議論し、早ければ会期中に結論を出す方向だといいます。

  • 常陸大宮市の人口は約3万5000人、面積の約6割を森林が占める
  • 文献調査を受け入れれば、国から最大20億円の交付金が支払われる
  • 住民からは「風評被害が一番おっかない」「過疎地狙い撃ちでは」「議決を待たないのは強引すぎる」との声も出ている

最終処分地の選定は法律上、文献調査・概要調査・精密調査という3段階を踏みます。文献調査は既存の地質データを机上で確認する調査で、ボーリングなどの現地作業は行いません。次の概要調査に進むには、都道府県知事や市町村長の意見を聴き、反対の場合は先に進めないという規定があります。つまり常陸大宮市が受け入れても、それだけで最終処分地が決まるわけではなく、あくまで長い手続きの入り口にすぎません。

先にお断りします。 本稿執筆時点で、常陸大宮市議会は文献調査の受け入れをまだ議決していません。市長は「議員の意見を聴いて最終判断する」としており、9月定例市議会の議論次第では受け入れが見送られる可能性もあります。また文献調査は3段階ある選定プロセスの最初の一歩にすぎず、これをもって最終処分地に決まるわけではありません。

📌 出典: NHKニュース共同通信(Yahoo!ニュース)テレビ朝日系ANN(Yahoo!ニュース)。 解釈と考察は当サイトが独自に執筆しています。

「手上げ方式」が20年で止まった理由

核のごみの最終処分地を探す公募制度が始まったのは2002年です。20年以上が経過しても、実際に文献調査まで進んだのは寿都町・神恵内村・玄海町の3件だけでした。2020年以降、新たに手を挙げた自治体はありません。

理由は単純です。文献調査を受け入れた首長は、それだけで「核のごみを受け入れた町」という看板を背負うことになります。佐賀新聞の報道によれば、玄海町では文献調査の開始から2年が経ったいまも、批判の矢面に立たされ続けています。交付金は最大20億円と大きい金額ですが、それを上回る政治的な重圧が、応募をためらわせてきました。

さらに厄介なのは、文献調査を無事に乗り切っても、次の概要調査に進めるとは限らない点です。北海道の寿都町と神恵内村は、文献調査の報告書がまとまった段階まで進みましたが、北海道は「核のごみを持ち込ませない」とする条例を持っており、知事は一貫して反対の姿勢を崩していません。首長が国策に協力する決断をしても、その先で都道府県の同意という、もう一段高い壁が立ちはだかる構造になっているのです。

この「手上げ方式の限界」を受けて、国は方針を転換します。自治体が名乗り出るのを待つのではなく、国が自ら適地を見定めて申し入れる。その第一号が、2026年3月に申し入れられた南鳥島でした。全島が国有地で、一般住民が居住していないという条件は、住民合意という最大のハードルを実質的に回避できる場所として選ばれたと見られています。

南鳥島が選ばれたのは、地質が優れていたからではない。そこに、説得しなければならない住民がいなかったからだ。

ただし時事通信の取材では、南鳥島は地質そのものは安定している一方、面積の狭さが課題とされ、次の段階の精密調査に進んでも実現には20年単位の時間がかかると指摘されています。つまり南鳥島だけで、最終処分地の選定プロセスが完結する見通しは、もともと立っていませんでした。

南鳥島の次に内陸の町を選んだ本当の理由

ここからは当サイトの考察です。南鳥島への申し入れから、わずか5か月で常陸大宮市への申し入れに動いた事実は、単なる偶然とは考えにくいと私たちは見ています。

もし南鳥島が「本命」だったなら、これほど早く次の候補地を探しに動く必要はありません。むしろ南鳥島は、国が自ら申し入れても、世論の大きな反発が起きずに手続きを進められるかどうかを確かめるための、いわば予行演習だったのではないでしょうか。住民がいない場所で「申し入れ方式」という新しい仕組みそのものへの反応を見たうえで、次の一手として人が暮らす内陸の町に踏み出した、という流れです。

常陸大宮市が選ばれた根拠として経産省が挙げるのは、科学的特性マップ上の好ましさと輸送面の利便性です。しかし、マップ上で「好ましい」とされるエリアは全国に広く分布しています。数ある候補地の中から常陸大宮市が最初に選ばれた背景には、地質だけでなく、人口規模や財政状況、そして首長がどれだけ前向きに応じてくれそうかという「合意形成のしやすさ」も加味された可能性があると、私たちは考えます。

住民合意のハードルを避けて選ばれた南鳥島から、わずか5か月で人が住む町へ。国が学んだのは地質の読み方ではなく、口説き方だったのかもしれない。

鈴木市長の「50年間安価なエネルギーを享受してきた」という発言は、原発の受益者としての義務を自ら語る、国にとって非常に説明しやすい立場です。今後、国が次の申し入れ先を選ぶ際、こうした発言を引き出せる可能性が高い自治体が優先されるとすれば、それは偶然ではなく、南鳥島から得た学習の結果と見るべきではないでしょうか。

もうひとつ見逃せないのが、常陸大宮市が海に面していない内陸の町だという点です。寿都町・神恵内村・玄海町はいずれも沿岸部で、地下深くに施設を掘る場合、掘削で出た土砂の搬出や将来の廃棄物の海上輸送を想定しやすい立地でした。内陸の町への申し入れは、この前提そのものが変わったことを意味します。輸送面が「好ましい」とされた根拠が具体的に何を指すのか、経産省はまだ詳しく説明していません。この点も、今後の議論で問われるべき論点です。

「単なる調査の広がりだ」という反論への応答

ここまでの読み解きに対しては、当然、強い反論があります。いちばん強いものを、自分で書いておきます。

「それは深読みしすぎだ」という反論です。南鳥島は面積わずか1.51平方キロメートルで、最終処分に必要な地下施設を単独で確保できる広さがありません。地質調査の対象を段階的に広げていくのは制度上ごく当然の手順であり、常陸大宮市への申し入れも科学的特性マップに基づく機械的な選定にすぎない。国の学習効果や戦略めいたものを見出すのは、根拠のない邪推だ——この批判は筋が通っています。

それでも、私たちはこう考えます。国が「どこを選ぶか」だけでなく「どう申し入れるか」という形式そのものを、手上げ方式から申し入れ方式へと切り替えた事実は動きません。

手上げ方式は20年で3件しか生みませんでした。それに対して申し入れ方式は、南鳥島からわずか半年で2件目に到達しています。このペースの違いそのものが、「首長が背負う政治的な重圧を、国が前面に立つことで肩代わりする」という新しい仕組みが機能し始めていることを示しています。常陸大宮市で起きている前向きな首長と、風評被害を懸念する住民の分裂は、この町だけの特殊な話ではなく、今後、全国のどこの町にも起こりうる出来事の縮図として見るべきです。地質調査の自然な広がりとして片づけてしまうと、この制度そのものの転換を見落とすことになります。

核のごみの最終処分地選定、あなたはどちらの方式が望ましいと思いますか?

よくある質問

常陸大宮市はなぜ核のごみの文献調査先に選ばれたのですか?

経済産業省が公表している「科学的特性マップ」で、地層処分の観点から好ましい特性を持つとされたエリアに含まれているためです。特に市南東部は輸送面でも好ましいとされています。人口約3万5000人、面積の約6割を森林が占める内陸の自治体です。

文献調査を受け入れると常陸大宮市はどうなりますか?

文献調査は既存の地質データなどを机上で確認する最初の段階で、ボーリング調査などの現地作業は行われません。受け入れた場合、国から最大20億円の交付金が支払われます。ただし文献調査を受け入れたからといって最終処分地に決定するわけではなく、この後も概要調査、精密調査という2段階が残っています。

南鳥島への文献調査申し入れとは何が違うのですか?

南鳥島(東京都小笠原村)は全島が国有地で住民が居住しておらず、2026年3月に国が自ら申し入れた「申し入れ方式」の第1号です。常陸大宮市は人が住む内陸の自治体で、住民合意という手続きが必要になる点が大きく異なります。

まとめ

核のごみ最終処分地の選定は、20年以上にわたり「自治体の意志」に委ねられてきました。しかしその手上げ方式が3件で止まったことを受け、国はみずから適地を見定めて申し入れる方式へと舵を切りました。南鳥島という無人島から始まったこの新方式は、わずか半年で人が暮らす内陸の町へと広がっています。常陸大宮市でいま起きていることは、この町だけの特殊な出来事ではなく、いずれ全国のどこかの町で繰り返される最初のケースかもしれません。

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